ある日突然、「集団辞職」が始まった
■まさかの集団辞職で天国から地獄へ
お客様の満足のために効率を捨て、1個在庫・多品種展示を選び、実際に道具を使って販売する「料理道具ヲタク」のいる店として、飯田屋はさまざまなメディアに取り上げられました。世間からは「いい会社」と褒めたたえられるようになったのです。
お客様もどんどん増え、業績は増収増益へ。そんな変化に、会社がいい方向へ進んでいる手ごたえを実感していました。
ところが、ある日突然、悪夢のような集団辞職が始まります。
実はその当時、社内の雰囲気は最悪でした。従業員休憩室からは絶え間なく愚痴や批判の声が漏れ、仲間の陰口を叩く者、同僚のミスを笑う者、人の足を引っ張る者がはびこり、従業員を募集してもすぐに辞めてしまう状況が続いていました。
「世間から注目されるこんな〝いい会社〞で働いているっていうのに、どこに不満があるんだ!? 売上も上がって、未来は明るいはずなのに!」
彼らの態度を理解しようとするどころか、憤りすら感じていたくらいでした。
そんな僕を嘲笑うかのように、その日は突然やってきました。役職者である営業課長を含む半数を超える社員が一斉に「辞めたい」と言い出したのです。
「なぜ辞めるんだ?」と理由を尋ねると、「実家の母の体調が悪く、介護が必要になったため辞めたい」と言います。介護であれば仕方ないかと渋々了承し、ほかの社員にも退社の理由を尋ねます。
すると、「実家の母の体調が悪いため辞めたい」と同じ理由。ほかの社員も一様に「家庭の事情があって」と言います。なぜ、こうも一斉に家族の具合が悪くなるのか……。
僕は、彼らが辞めたい本当の理由をまったく理解できずにいました。なぜなら、経営状況はかつてないほどの改善に向かっていたからです。いよいよ、従業員の給与を上げることも、待遇を改善することもできる時期にさしかかっていました。
「ここで辞めたらもったいない!」と、必死に彼らを引き止めました。
でも、「一刻も早く辞めたい」の一点張りで、まるで聞く耳を持ってはくれません。「せめて次の従業員が決まるまで働いてほしい」とお願いし、渋々勤務を続けてもらうような状況でした。
そんな中でも、メディアからの取材依頼は絶えません。飯田屋をこれからもっと「いい会社」にしていくために、メディア対応に追われる日々を過ごしました。