(※画像はイメージです/PIXTA)

お客様を喜ばせようと必死な一方で、従業員にはパワハラ状態の売上至上主義を貫いていたという飯田屋6代目店主。自分は正しいと信じて疑わなかった6代目店主はどうやって自分の失敗に気づくことができたのか。※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

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お客様であふれるお店は実現できたが…

■正論は一方的なただの暴力

 

とにかくお客様を喜ばせようと必死な一方で、従業員には高圧的な売上至上主義を貫いていました。ミスがあれば大声で怒鳴りつけ、売上が上がらなければ頭ごなしに駄目出しをする。「お客様を喜ばせるため」という大義のもと、絶対に言い返せないような正論で従業員たちを追い込みました。

 

「嫌われたってかまわない」
「いい店をつくるためなら、いつだって嫌われ役を買って出てやる」
「さぁ、嫌ってくれ! その代わり、なんでも言える権利が僕にはあるからな」

 

僕は本気でそう思っていました。

 

経験の浅い若造に、後継者というマウントポジションから一方的に正論で追い込まれたのですから、さぞかしプライドを傷つけられていたことでしょう。

 

一方的な正論はただの暴力にすぎません。それにまったく気づいていませんでした。

 

誰よりも料理道具を勉強して、お客様に喜んでもらえる接客をこなし、誰よりも売上をつくっているというおごりがありました。経営者がすべき仕事に加えて、メディアへの対応もこなし、誰よりも努力をしている自負がありました。

 

従業員たちができないのは、ただ単に努力が足りないからだと考えていたのです。

 

しだいに、誰もがミスを隠すようになっていきます。そうした彼らのずるさを発見すれば、なおのこと怒りは込み上げてくるのでした。

 

売上が上がらなければ怒鳴られ、怒られればさらに萎縮してミスを起こし、ミスをすればまた追い打ちをかけるような罵声を浴びせられ、それがわかっているからまたミスを隠したくなる――何をしても怒られるのではないかという抜きがたい恐怖心が負のスパイラルをつくりあげていました。

 

突然辞める従業員は後を絶ちません。消えた従業員が残した仕事は山積みになり、残された者の負担は大きくなるばかり。ただでさえオーバーワークだから、これまで簡単にこなせていた仕事にもミスが起こりはじめます。

 

納品から帰ってくると「数量が足りていない!」と、クレームの電話が頻繁にかかってくるようになりました。数を確認する単純作業ができないほどに、心の余裕がなくなっていたのです。

 

店頭でご購入いただいた商品を、配送するだけの作業にもミスが起こります。「購入したものと違うものが届いた」というお客様からのクレームが続きました。

 

その理由をのちに知るのですが、ストレスを抱えた従業員が僕への嫌がらせに商品を取り替えていたのでした。不満のはけ口をお客様へ向けるほど、僕は彼らを追い詰めてしまっていたのです。

 

それでも僕は、どんなに従業員が頻繁に変わろうが、採用して2週間で辞めようが、どれだけクレームが増えようが、平然とした顔をしていました。経営者としての威厳を保つためには、弱みを見せてはいけないと思っていたからです。

 

「辞めていくほうに問題がある」「あいつらは根性がないんだ」「なんで僕はこんなにも人に恵まれないんだ」と、辞めていった人たちに指を向け心の内でののしることで、本当の原因から目をそらしていたのです。

 

まだ、自分の弱さを受け入れられずにいたのです。

 

精神的に追い詰められ、食べものもろくに喉を通らなくなりました。神経は過敏になり、不眠が続くようになります。いつも微熱状態で、どんどん痩せていきます。自分自身の体が壊れていくのを感じました。

 

あんなにも夢に見た、売上が上がり、お客様でいつもあふれている評判の店を実現できたのに、僕の心はまったく穏やかではなく、幸せとはかけ離れていました。そこにいるだけで苦しみを感じる、まるで地獄のような店になっていたのです。

 

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浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

効率度外視の「売らない」経営が廃業寸前の老舗を人気店に変えた。 ノルマなし。売上目標なし。営業方針はまさかの「売るな」──型破りの経営で店舗の売上は急拡大、ECサイトもアマゾンをしのぐ販売数を達成。 廃業の危機に…

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