社長の心を占めていたのは極度の売上恐怖症
しかし、現実はまったく違ったのです。なぜでしょうか?
理由の一つが、僕の心の底深くに根を張っていた極度の売上恐怖症でした。
「一人のお客様を心から喜ばせられれば、結果的に売上はついてくる」
頭では、そう理解できているつもりでした。ところが、「売上がなければ会社は継続できない……。また売上に悩まされる日々に戻りたくない」という恐怖心がずっと僕を支配していたのです。
いい会社の4条件を揃えることは、その恐怖心から目を背けるのには好都合でした。
そうすれば、「なぜ、もっと努力をしないんだ!」「なぜ、もっと売上をとれないんだ!」「どうして、お客様をもっと喜ばすことができないんだ!」と、できない責任を従業員に押しつけることができたからです。
「僕はこんなに頑張っているのに!」と示したかっただけなのです。
従業員のためを装いながら、僕は売上のことしか考えていませんでした。
本来であればいちばんの味方であり、もっとも大切にすべき従業員たちを、小間使いのように扱っていました。経営者である自分は「お客様のためならば何をしてもよい」とばかりに振る舞っていました。
そんな僕の、醜い心の内を見透かしていたのでしょう。だから、従業員たちは飯田屋から去っていきました。
いい会社をつくっている気になっていただけで、会社を内側から壊し続けていたのは、安売りに走ったときと同じく、ほかならぬ僕だったのです。
経営者失格、後継者落第――それが僕の現実でした。
飯田 結太
飯田屋 6代目店主