「騒音」「悪臭」も裁判で訴えられる?
(1)実体要件
ア 共同利益背反行為(法6条1項)
「区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合」には、停止等を請求することができます(法57条1項)。
なお、同項には「区分所有者の共同の利益のため」という目的要件も付されており、この要件は特定の区分所有者の閉め出しといった不当目的の請求を排除するためのものとされていますが、実質的に争点になった裁判例は見当たりません。
ただし、共同利益背反行為該当性を認めつつ、区分所有法57条に基づく原告の請求が一般法理における権利濫用にあたるとして請求が棄却された例として東京地裁平成17年6月23日平判決(判タ1205号207頁)が存在します。
同法6条1項においては、いわゆる共同利益背反行為(「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」)を禁止しています。
共同利益背反行為の例としては、建物の一部の取り壊しといった建物自体に物的侵害を与える不当毀損行為や、共用部分を囲うなどして他の区分所有者の使用を妨げ共有持分権自体を侵害する行為のほか、騒音・悪臭といったニューサンス行為などがあります。
イ 判断基準
共同利益背反行為該当性の一般的基準について裁判例は、「共同の利益に反する行為にあたるかどうかは、当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸事情を比較考量して決すべきものである。」としています【東京高判昭和53・2・27下民集31・5〜8・658】。
(2)請求主体、請求の手続要件
区分所有法57条に基づく停止等請求は、裁判外(勧告等)、裁判上(訴訟)どちらでも行使することができますが、裁判上の請求をする場合には総会の普通決議が必要です。
ア 請求主体
裁判外の請求では、個別に権利行使が可能であると解されています(濱崎恭生『建物区分所有法の改正』法曹会 1989・339頁)。
訴訟の提起は、各区分所有者単独ですることはできません。管理組合法人区分所有者全員、管理者または総会の普通決議により指定された区分所有者(法57条3項。以下「管理者等」といいます。)が原告となる必要があります。
なお、法人格なき社団となった管理組合については、区分所有法57条3項の文言から原告になることはできないと考えられていますが、管理組合が原告である請求を認容している裁判例も散見されます。【東京地判 平成19・10・9判秘等】。
イ 普通決議
区分所有法57条に基づき訴訟を提起する場合は、請求の相手方および共同利益背反行為ごとに、総会の普通決議を要します(法57条2項、39条1項)。
管理規約において、あらかじめ、訴訟提起の決議の省略や管理者等への委任を定めることはできません。
(3)請求内容・効果
ア 区分所有法57条1項に基づく区分所有者への請求
管理者等は、共同利益背反行為をした区分所有者に対して、行為の停止、行為の結果除去、行為の予防のために必要な措置を請求できます。
イ 同57条4項に基づく占有者への請求
管理者等は、共同利益背反行為をした占有者に対して同条1項の場合と同様の措置を請求できます(法57条1項ないし3項を準用)。