「うちは貧乏」…質素な家庭に育った42歳会社員
「うちは貧乏だからな」
それが、佐伯隆一さん(仮名・74歳)の口ぐせでした。都内の企業に勤めあげ、3年前に妻を看取りました。年金は月およそ24万円。古い戸建てで一人暮らしを続けています。質素で堅実――それが、息子の健太さん(仮名・42歳)から見た父の姿でした。
外食はほとんどなし。家計は父が管理しており、母は父に従い質素な生活に努めていました。そんな家庭の空気は、進学にも大きく影響します。
大学は「国公立を狙いなさい」のひと言。健太さんは努力しましたが、結果は不合格。地元の私立大学へ進学することになりました。すると父はいいました。
「自分で選んだ進学先だろう。私立は学費が高いから、奨学金を借りなさい」
健太さんは月10万円の奨学金を借り、学費の一部に充てました。それでも「家計が厳しいなら仕方ない」と、自分に言い聞かせてきたのです。
初めて目にする通帳…その残高に唖然
転機は、父が体調を崩したことでした。軽い脳梗塞。命に別状はありませんでしたが、健太さんは父の独居に不安を覚えます。とはいえ、仕事もあり、小さな子どももいる。頻繁に通うことも、同居することも現実的ではありません。
ところが、そんな悩みをよそに、しばらくすると父はあっさりといいました。
「心配するな。老人ホームに入るつもりだ。見学も済ませた」
案内されたのは、駅近の新しい有料老人ホーム。ロビーはホテルのように明るく、食堂も清潔感がある。提示された数字に、健太さんは思わず息をのみました。
入居一時金:780万円
月額利用料:32万5,000円
「いや、払えないでしょ?」
思わず口にした言葉でした。まさか援助を求められるのか――そう身構えた健太さんでしたが、思いもよらない事実を知ります。
契約手続きのために通帳を預かり、初めて残高を目にしました。普通預金と定期預金を合わせて約4,600万円。さらに投資信託も保有しているといいます。
親が老後資金をしっかり準備していた。それ自体は安心材料のはずです。けれど、健太さんの胸にはじわじわと違和感が広がっていきました。
