親が持つ「部屋の所有権・利用権」は競売できるのか
(1)実体要件
区分所有者の59条1項の実体要件は以下の2つです。
ア 共同利益背反行為による共同生活上の障害が著しいこと
区分所有法58条1項に基づく請求と同様の要件です。
イ 「他の方法」に基づく請求によってはその障害の除去、区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること
この点も、同法58条1項に基づく請求と類似していますが、「他の方法」によっては共同生活の維持を図ることが困難であることが要求され、58条1項の要件を加重したものになっています。「他の方法」とは、民事上の他の法的請求(法7条、57条、58条、民709条等による)を意味し、刑事上の告訴等は含まれません。
なお、管理費滞納の事案については、58条に基づく使用禁止請求は管理費滞納行為とは関連性がないとして使用禁止請求を棄却した一方で同法59条に基づく競売請求を認容した事例も存在します【大阪高判平成14・5・16判タ1109・253)。
(2)請求主体、請求の手続要件
請求主体が限定されること、特別多数決議を要すること、弁明の機会付与が必要であることは、区分所有法58条に基づく請求と同様です(法59条2項)。
(3)請求内容・効果
共同利益背反行為者の専有部分の競売を申立てることができる権利(競売権)が形成されます。この競売権に従って、判決が確定した日から6ヵ月を経過するまでの間(法59条3項)に、形式的競売(民執195条)を申立てることができます。この場合、民事執行法63条は競売手続費用との関係以外では適用されず、競売申立人が競売費用を負担すれば、無剰余であっても競売は実施可能とした裁判例が存在します【東京高決平成16・5・20判タ1210・170】。
なお、当該競売では、共同利益背反行為者およびその計算において買い受けようとする者は買受けの申し出はできません(法59条4項)。
(4)譲受人に対する効果
補論になりますが、共同利益背反行為者が執行妨害目的等で区分所有権の全部または一部を第三者に譲渡した場合の、譲受人に対する効果も問題になります。
ア 口頭弁論終結前の譲受人
口頭弁論終結前に共同利益背反行為者が区分所有権を第三者に譲渡した場合、係属中の訴訟の被告は当事者適格を欠くことになり、このままでは訴えが却下されます。この点、最高裁平成23年10月11日決定(判タ1361号128頁)の補足意見では、訴訟引受けの可否について、「原告は、譲受人に対し訴訟引受けを求めることができる」と述べています。
イ 判決確定後の譲受人
判決確定後競売開始決定に基づく差押えの登記がなされる前に、被告となった共同利益背反行為者が、第三者に対し区分所有権を譲渡した場合は、判決確定後の譲受人に対して同判決に基づき競売を申立てることはできません【前掲・最決平成23・10・11】。
判決確定後競売開始決定に基づく差押えの登記がなされた後に譲渡した場合について判断した例はありませんが、差押登記に処分制限効を認めるか否かにより結論が分かれるといえるでしょう。