「ゴミの封を開けるって違法ではないのですか?」
それを捨ててしまう。ここに入居者の疲れた、前向きになれない心の内を見た気がしました。洋服も多く捨てられています。こちらも靴と状況は同じです。綺麗に洗濯をし、シミを取り除けば、まだ着られる状態。それでも手間をかけずに処分されています。
気持ち的に、余裕がないのでしょうか。もう面倒だ、捨ててしまえということでしょうか。お土産でもらったのか、記念に購入したのか、小さなキーホルダーや、先の尖ったボールペン、マジックペン、化粧品の容器、残り少なくなった口紅、ヒビの入った食器もありました。
ゴミ回収の作業員が語った「馬鹿にされている」というより、怪我を誘発する危ないゴミとしか言いようがありません。生活をしていると、こうも不要な物が増えるのか……改めて自分の生き方にまで思いを馳せました。
2時間ほどかけて半分ほどゴミを整理した頃でしょうか。入居者が、中居さんの前を通りました。中居さんはその時、驚くべき言葉を耳にするのです。
「家主さんがゴミの袋を開けるだなんて、プライバシーの侵害なのでは? これ全部中身をひっくり返すんですか?」
愕然としました。この30代の女性が、きちんと分別してゴミ出しをしていたのかどうかも分かりません。ただ家主が溢れかえったゴミの整理をしているので、労いの言葉でもあるのかなと思っていたのです。それが予想を反してのクレーム。中居さんは言葉を失いました。
「家主さんだからって、勝手にゴミの封を開けるって違法ではないのですか?」
女性は語気を強めて言い放ちます。
「すごく不快です」
その後ろ姿を見ながら、中居さんは怒りが体の中で増長するのを覚えました。自分だって、こんな作業はしたくない。入居者たちがきちんと分別してゴミを出してくれさえすれば、こんなことをせずに済んだのです。
朝から打ちのめされたような気持ちで悪臭と闘いながら分別しているのに、慰労どころか「違法」と責められる筋合いはありません。大体こんなゴミの捨て方をしたのは、アンタたちじゃないのか。
今まで入居者たちと信頼関係も築き、いい関係だと信じていたし、何よりも「お客様」だと思っていました。中居さんが家主業を始めて以来、初めて入居者を「アンタたち」と敵対視した瞬間でした。
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