コロナ感染拡大の影響により在宅時間が増える中、マンションやアパートでは生活音に関するトラブルが深刻化しています。※本記事では、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏の書籍『不動産大異変:「在宅時代」の住まいと生き方』(ポプラ社)から一部を抜粋・編集し、騒音トラブルの事例を紹介していきます。

「包丁を振り回すヤバい入居者」出て行ってもらうには

「私だって退去して欲しいけど、これって法律的には簡単に出て行ってもらえないよね。板挟みでほとほと疲れました」 

 

民法上、家主側から家賃を払ってくれている入居者に退去してもらうためには、信頼関係が完全に破綻したということを裁判で立証しない限り、難しいのが現状です。この包丁を振り回す女性の場合も、普段は大人しくしている以上、確かにすぐに退去してもらうことは簡単ではなさそうです。 

 

しかも昨今、家賃保証会社の台頭で、お身内の連帯保証人がいない場合が多く、現状を相談することもできません。もしかしたら女性は、心の病を抱えているのかもしれません。お身内の方が、病院に連れて行ってくれたらとは思いますが、その願いも空しく、そもそもお身内の連絡先すら分からないのです。 

 

そうするとご本人が自ら診察を受ける以外、この状態が改善するとは思えません。 

 

警察も「事件が起こらない限りどうしようもない」としか言わないのです。せめて包丁を振り回している最中に警察が来てくれたら、そのまま措置入院という方法もあるかもしれません。ただいつも警察は、女性が静まった頃に到着するのです。 

 

結局のところ家賃を滞納してくれるか、家主側との信頼関係が完全に破綻したという証拠ができるまで、家主は待つしか打つ手はありません。 

 

でもそんなことを知らない他の入居者たちは、常に緊張を強いられているのです。包丁を手にした女性がいつ部屋から出てくるか分からないという恐怖を、抱き続けなければなりません。

 

自分の住んでいる物件の廊下を歩くことさえも、全く気を抜くことはできないでしょう。安らぎの場は、室内のみ。そこですら換気のために窓を開けることも、躊躇ってしまいます。

 

標的になっている男性も、そして他の入居者たちも、ストレスはマックスです。その矛先が、このような状況のままにしている家主や管理会社に向かったとしても仕方がありません。

 

一方で家主からしても、こういった状況はたまったものではありません。女性にすぐ退去してもらうことは難しく、住民からは怒られ、常に「事故物件」になる可能性にビクビクしている訳です。それこそ気が気ではありません。

 

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不動産大異変:「在宅時代」の住まいと生き方

不動産大異変:「在宅時代」の住まいと生き方

太田垣 章子

ポプラ社

著者は、20年にわたり2500件以上の不動産トラブルを扱ってきた異色の司法書士。 業界紙・業界誌などでの連載や「家賃滞納という貧困」「老後に住める家がない!」などの著作を通じて(ともにポプラ新書)、業界では知らない人…

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