医療ヒューマンエラー対策は、現場を直視しなければ始まりません。アレルギーなど、実際に病院で起きたヒューマンエラー事例を3つ紹介したのち、各事例のリスク低減のための考え方について見ていきます。※本記事は、河野龍太郎氏の著書「医療現場のヒューマンエラー対策ブック」(日本能率協会マネジメントセンター)より抜粋・再編集したものです。

「食止め」伝達ミスによるヒューマンエラー事例

医療の現実を見てみましょう。ヒューマンエラー対策は、まず現実を、そして現場をよく見ることです。病院の管理者は現実を見ているようで、実際はあまりよく見ていません。

 

エラー対策は結局リスクマネジメントであり、まずは現場で何が起こっているのかという現実を直視することです。

 

では、以下が事例です。

 

7月17日昼頃、患児Aは腹痛があったため、医師Bにそれを訴えた。そこで医師Bは、指示簿に「指示があるまで食止め」を指示して、日勤リーダの看護師Cと患児Aに伝えた。指示を受けた看護師Cは、日勤メンバーの看護師Dに患児Aが食止めになったことを伝え、看護師Dは患児Aの昼食を配膳しなかった。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

16時頃、日勤リーダの看護師Cは遅番の看護師Eに、患児Aが食止めになったことを申し送り、看護師Eはこれをメモした。同様に、看護師Cは準夜勤務の看護師Fに患児Aが食止めになったことを申し送った。

 

夕食時、看護師Eは自分のメモを見て、患児Aの夕食を配膳しなかったため、患児Aは夕食を食べなかった。

 

7月18日0時、準夜勤務の看護師Fは引き継ぎの深夜勤務の看護師Gに、17日は患児Aが食止めであったことを伝えた。

 

朝7時頃、医師Bは患児Aの診察をした。医師Bは「採血をして、その後、食事を開始するかどうかを決めます」と、患児Aに伝えた。ところが、これを聞いた患児Aは「医師Bは食事を食べてもいいと言った」と理解した。

 

ちょうどそのころ、深夜勤務の看護師Gは、早番勤務の看護師Hに引き継ぎをしたが、そのとき、患児Aが食止めになっていることを伝えなかった。引き継いだ看護師Hが見たホワイトボードには、患児Aの食止めという記述はなかった。

 

7時30分頃、看護師Hは患児Aに食事を配った。患児Aのベッドサイドには「食止めカード」はなかった。患児Aは届いた朝食を食べ始めた。

 

7時35分頃、深夜勤務の看護師Gは患児Aが食事をしているのを見つけ「食事を食べてもいいとB先生に言われたの?」と聞いた。すると、患児Aは「B先生は検査したので食べてもいいと言ったよ」と応えた。

 

看護師Gは確認のために、医師Bに連絡をとろうと電話したが医師は電話に出なかった。約10分後に連絡が取れたので「患児Aの食事は再開されたのですか?」と尋ねると、医師Bは「採血後に食事を開始するか検討すると患児Aにいった」と応えた。

 

そこで、間違いが発見され、医師Bは患児Aの食事を直ちに止めるように指示した。看護師Gは直ちに患児Aに伝えたが、すでに完食した状態だった。

 

この病棟では、長期で食事を止めない場合は指示簿で「食止め」と指示を出すことがあった。

 

これはいつでも食事が再開できるようにするためであったが、その場合には、①指示を受けたリーダ看護師がホワイトボードに「食止め」を記入し、「食止めカード」を置く、②指示が出された日の遅番はホワイトボードを確認し、もし記入されていない場合は遅番が記入する、という運用をしていた。この事例では、指示は食止めになっていても栄養部に「食止め」の指示は出ていなかった。

 

次ページ善意から起きた「食物アレルギー」事例
医療現場のヒューマンエラー対策ブック

医療現場のヒューマンエラー対策ブック

河野 龍太郎

日本能率協会マネジメントセンター

医療現場のヒューマンエラーはゼロにはできないまでも、管理して減らすことができます。人間の行動モデルをもとに、 B=f(P、E) という式を知り、それによって人間の行動メカニズムを理解することがその第一歩です。 …

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