現場からトップへ、事象やミスを「報告し続ける文化」
トップが現場のすべての状態を常に正しく把握することは不可能です。現場の問題をもっとも直接見つけ出せるのは、現場の人以外にありません。この現場とは、病棟や診察室という具体的な現場はもちろん、会議や部署との関係などの全体を指します。
そこで現場の問題を報告してもらう仕組み、すなわち安全情報報告システムは、潜在的な危険と直接触れ合う作業員の積極的な参加に頼らざるを得ません。
しかし、事象やニアミスの報告を提出するように人々を説得することは、やさしくありません。とくに、自分自身のエラーを報告させる場合であればなおさらです。難しいことです。
これを達成するためには、「報告し続ける文化(reporting culture)」をつくりあげる仕組みが必要です。後で説明しますが、インシデント報告制度はその1つです。
ただし、この報告制度に対して、報告体制への参加を妨げるいくつかの要因があります。たとえば「よけいな仕事だ、本当に大丈夫?」という懐疑、「すでに起きた事故のことを忘れようとする自然な願望」「信頼できないし、報告すると報復される」などがそれに当たります。
情報提供を奨励し、信頼関係に基づいた「正義の文化」
報告し続ける文化を構築するには「非難しない文化(no-blame)」、つまり正直者が得をすることが大切です。したがって、必要なのは「正義の文化(just culture)」であり、それは安全に関連した本質的に不可欠な安全関連情報を提供することを奨励し、ときには報酬をも与えられるような信頼関係に基づいた雰囲気です。
ただし、これはとても難しいのです。許容できる・許容できない行動の境界がどこにあるかについても、各人は明確に理解しておかねばなりません。報告の文化がうまくいくかどうかは、組織が非難や処罰をどのように扱うかにかかっています。
言語道断な行為(薬物乱用、とんでもない不服従、サボタージュなど)には厳しい制裁が必要です。すべての不安全行動を盲目的に許すことは、作業員には信頼感を欠くものと映り、正義に反しているように見えます。安全関連情報を提供することを奨励し、ときには報酬をも与えられるような信頼関係に基づいた雰囲気が重要です。