誰かのせいにすると…「ミスを連発する職場」になる納得の理由

医療ヒューマンエラーは、疲労や知識の有無といった「人の状態」と、「環境」を要因として起こります。こうした人間の行動のメカニズムを理解すれば、エラー対策が可能になるといいます。チーム内でのエラーへのアプローチも同様です。パフォーマンスを最大にする考え方について紹介します。※本記事は、河野龍太郎氏の著書「医療現場のヒューマンエラー対策ブック」(日本能率協会マネジメントセンター)より抜粋・再編集したものです。

ヒューマンエラーを認識しやすくする「数式」

――ヒューマンエラーの分析に使える式、B=f(P、E)について説明してください。

 

河野:ヒューマンエラーとは行動で考えなければならないものです。行動が、ある期待された範囲から外れてしまったものがエラーだからです。

 

まず、ある行動があり、それが評価されてエラーと呼ばれるのです。したがって、期待される範囲が異なれば、同じ行動がエラーと評価されない場合もあるのです。ということは、エラーであるか、エラーでないかの前に、まず、行動を理解することが先なのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

この理解のためにモデルを使うとわかりやすいのです。この式は、行動を理解するときは「人間側の要因」と「環境側の要因」の2つに分けるとわかりやすい、ということを簡潔な数式で表現していると考えるといいと思います。数式に惑わされず、意味を理解してください。

 

Bはその行動、そしてPは人の要因、Eは環境の要因を示しています。fは関数という意味で、ここでは「“関係する”ということを示している記号」という程度に思ってもらってかまいません。つまりこの式は「人間の行動は、人の要因と環境の要因の関係によって決められる」という意味です。

 

「人の行動を理解するには、P(人の要因)とE(環境の要因)に分けるとわかりやすくなる」、これがレビンの行動のモデル※1です。たとえば、Pには、長時間労働による疲労、加齢による能力低下などの要因があります。また、正しい知識や技術を保持しているかどうかなども含まれています。これらの人の状態によって、行動が変わってくることになります。

 

※1 「人の行動を決めるのは、人の要因と環境の要因があり、2つに分けて考える」とするモデル。

同じものでも人によって描く「心理的空間」は違う

一方、E(環境の要因)はというと、実際に目の前にあるE(物理的空間)と、それを頭の中に描いて理解したE(心理的空間)に分かれます。これを、コフカが提示した例※2で説明しましょう。

 

※2 「環境には、物理的空間と心理的空間の2つがあり、人間の行動は常に心理的空間に基づいて決定される」とするモデル。

 

湖も凍る真冬に、旅人が薄く凍結した湖の上を歩いてある宿屋にやってきた。その土地の住人ならば薄氷のはった湖の上を歩いたりなどしません。しかし、旅人は湖があることを知らないわけですから、危険だと思うこともなく湖の上を歩いてきたのです。

 

この場合、物理的空間にあるのは凍った湖です。氷は割れてしまうかもしれません。しかし旅人は湖の存在を知らないので、目の前に広がるただの平原だと解釈しています。

 

人は自分を取り巻く環境を目や耳で見たり聴いたりして、自分はどんな世界にいるのかを理解します。これが人が頭の中につくり上げた世界、すなわち、心理的空間です。そして判断して行動をとるとき、そのよりどころとしているのは、この心理的空間なのです。

 

では、その土地に住んでいる人ならどうでしょうか。その人は同じ情景を見て、頭の中に心理的空間をつくります。しかし、目の前に広がる平原の下には湖があることを知っているので、単なる情景が頭の中に映し込まれるだけでなく、すでに湖の存在を情報として持っています。

 

したがって、土地の人の心理的空間には環境に湖が存在しています。土地の人は湖が見えるので、そこを横切ることはないのです。ある物理的空間があって、それを見て解釈した心理的空間によって人間は行動していると言えるのです。

 

ということはつまり、同じものを見ても、人によって思い描く心理的空間は異なっていることがあり、そこで行動も変わってくるということです。私たちはみんな同じ環境の中にいても、それぞれはそれぞれの心理的空間を構築するのです。

株式会社安全推進研究所 代表取締役所長
学校法人東京女子医科大学 理事長特別補佐(医療安全・危機管理担当)
日本人間工学認定人間工学専門家 博士(心理学)
自治医科大学 名誉教授

防衛大学校(航空要員、電気工学)を卒業し、航空局東京航空交通管制部で12年間、航空管制官として勤務。

航空機を衝突コースに誘導するというエラーを経験し、エラー防止を目的に心理学を専攻。

その後、東京電力(株)技術開発本部で原子力発電プラントのヒューマンファクターを研究。ある医療事故の関係者と出会い、医療が安全に関して極めて問題の多いことを認識。

医療安全の問題に本格的に取り組むため、2007年に自治医科大学医学部メディカルシミュレーションセンターに勤務(センター長、医療安全学教授)。

一貫して航空、原子力、医療、交通、製造システムなどのリスク管理および事故におけるヒューマンファクターの問題を研究し続けている。

著者紹介

連載人間の行動メカニズムから理解!医療現場のヒューマンエラー対策

医療現場のヒューマンエラー対策ブック

医療現場のヒューマンエラー対策ブック

河野 龍太郎

日本能率協会マネジメントセンター

医療現場のヒューマンエラーはゼロにはできないまでも、管理して減らすことができます。人間の行動モデルをもとに、 B=f(P、E) という式を知り、それによって人間の行動メカニズムを理解することがその第一歩です。 …

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