医療エラーを防ぐためには、チーム間での情報共有において気をつけるべき点が多くあります。会話での情報伝達には思い込みによる誤解が発生するものです。ここでは、対策法を事例とともに見ていきましょう。※本記事は、河野龍太郎氏の著書「医療現場のヒューマンエラー対策ブック」(日本能率協会マネジメントセンター)より抜粋・再編集したものです。

「報告の順番」を工夫した、医療チームのエラー対策

医療チームのエラー対策には、リーダーを決め、そこへ情報を集めることが重要です。よって部下は情報を報告する必要があります。

 

報告するときには情報内容の順番を決めておくと、理解するのが容易になります。たとえば、医療におけるチームトレーニング手法であるTeam STEPPSでは、

 

①状況(Situation)

②背景(Background)

③評価(Assessment)

④提案と依頼(Recommendation Request)

 

の順番で伝えることを推奨しています。これは米国海軍の潜水艦乗務員の間で使われていたコミュニケーション方法を医療に適用したもので、米国海軍の経験に基づいている実績のある方法です。

 

情報を受け取る側が一種の構えができると同時に、報告の順番は時間軸に沿っていることがわかりやすくしていると考えられます。

「指示内容を復唱」「復唱内容の照合」で誤解を防ぐ

放射線技師Xは、患者Aの撮影準備ができたので、病棟に「Aさんを検査室に連れてきてください」と電話しました。しかし、電話を受けたリーダー看護師は「わかりました」とだけ答えて電話を切りました。しばらくして看護師がつれてきたのは、別の患者Bでした。

 

このようなエラーを防止するには確認が必要です。電話や直接会って会話で情報を伝達することをヴァーバルコミュニケーション(verbal communication)といいます。

 

この場合はTwo Way Communicationが大原則です。つまり、伝達エラーを防止するには、復唱(Read Back)と照合(Hear Back)が最低限必要です。送り手の心理的空間と受け手の心理的空間が一致したときをコミュニケーションが成立したということができるのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

前述のTeam STEPPSはCheck-Backを推奨しています。これはたとえば、医師が「べナドリル(抗ヒスタミン剤)25mgを静注してください」とオーダーしたら、看護師は「べナドリル25mgを静注します」(Read-Back)と復唱し、さらに医師は自分の指示した内容と看護師の復唱したことを照合(Hear Back)して、「そのとおりです」と応えて(Check Back)コミュニケーション上の誤解を防止するのです。

 

復唱と照合については、緊急時であっても、医師がある薬剤を看護師にオーダーしてそれを受け取ったとき、薬剤をもう一度自分の目で確かめるという慎重さがほしいものです。注射薬は一度体内に入るとそれを取り出すことは非常に困難です。失敗は許されません。

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医療現場のヒューマンエラー対策ブック

医療現場のヒューマンエラー対策ブック

河野 龍太郎

日本能率協会マネジメントセンター

医療現場のヒューマンエラーはゼロにはできないまでも、管理して減らすことができます。人間の行動モデルをもとに、 B=f(P、E) という式を知り、それによって人間の行動メカニズムを理解することがその第一歩です。 …

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