IT化を進めて合理化しても職員は削減できない
なお、一部の心ある介護職員の名誉のために申し上げておきますが、いくら心ある介護職員がいたとしても、それを会社や介護保険制度が許してくれないという事情もあります。いくら親切に高齢者に対し支援をしたくても、採算や収益を考えた場合、それが叶わないという事情も存在しています。
「職員をもっと増やしてくれないと、よい介護支援ができません」
「職員をこれ以上増やすと赤字になり、会社は潰れてしまいます」
「じゃあどうすればよいのですか」
「現状の中でできることをするしかないですね」
「……」
という具合です。
職員の能力を無視して職員の言い分だけを言うのであれば、老人ホームの職員数を増やしてくれれば、もっと入居者に寄り添える介護ができます、という話になります。これが理屈です。しかし、現実はというと……。
こんな話があります。老人ホームの運営事業者の中には、人手不足を何とか解消すべく、ホーム運営に対しITやAIの導入を積極的に研究している企業も多く存在しています。
当然、これらのホーム運営企業の経営者の目的は、少ない職員で介護支援レベルを下げない方法の開発にあります。中には、IT化を進め合理化で生み出した時間を職員の削減ではなく、入居者とのコミュニケーション時間に充てることを推奨している経営者も多くいます。
しかし、その実態は無残なものです。介護職員らは、新たに生み出された時間を埋めるために、今まで1時間で完了していた仕事を2時間かけてやるようになってしまいます。つまり、いくら合理化をして、業務量を減らしても、その減らした時間は介護職員が従来の仕事で打ち消してしまい、入居者のメリットにはならないのです。この話を私に話してくれたホーム経営者は、「無念である」と言っていました。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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