ひと昔前まで老人ホームは二極化していた
そもそもなぜ、世の中に老人ホームが存在しているのか?
なぜ、世の中には老人ホームが存在しているのでしょうか?
私が老人ホーム業界に飛び込んだときは、老人ホームと言えば、特別養護老人ホーム(特養)を指したものです。そして、これら老人ホームのことは「養老院」と呼んでいました。
今にして思えば、この「養老院」は、特養だけでなく、老人がたくさん入院していた病院なども含めてそう呼んでいたような気がします。
私が子供のころ、よく周囲の大人たちが話していました。「Aさんの家のおじいちゃん、最近、見かけないけど、どうしたんだろうね」「養老院に入ったって、お嫁さんが言っていたよ」「そう、気の毒にね。でもボケちゃったっていうから仕方がないね」。つまり、本人の意思とは関係なく、周囲の事情で「養老院」に強制収容されていたということになるのでしょうか。
また、「そのうち、足腰が立たなくなったら俺も養老院に行かされる」なんて言っていた大人が多くいたと記憶しています。
さらにもう一つ、老人ホームと言えば、健康型老人ホームも古くから世の中に存在していました。こちらは、いわゆる元気な富裕層が別荘代わりに利用する老人ホームのことを言います。
温泉やプールを常設し、併設された高級レストランでは有名シェフの料理が楽しめます。ホーム内にあるクリニックは、有名病院が運営していることが多く、引退した企業経営者や師、弁護士などの富裕層が利用していたと記憶しています。
つまり、昔の老人ホームは、社会の中で困った存在の老人や一人で生きていくことができない老人に対し、半ば強制的に施設に収容していたパターンと、それとはまったく真逆で、経済的に恵まれている高齢者が、贅沢や便利を追及するために多額の費用を負担し、豊かな生活を楽しむべく老人ホームに入居するパターンの2つがあったということになります。もちろん、強制収容の場合は、家族の費用負担は低額だったはずです。
それが2000年になって、介護保険制度が始まり、多くの民間企業が、これはビジネスチャンスになると捉え、多種多様な老人ホームが次々に開設されるようになったのです。