「ドアが開かないのよ」母からの一本の電話
「ドアが開かないのよ。どうしたらいいのか分からなくて……」
平日の午後、都内で働く会社員の玲子さん(仮名・48歳)のもとに、母・和子さん(仮名・82歳)からそんな電話がかかってきました。
母は地方都市の家で一人暮らしをしています。父は数年前に他界し、現在は年金とわずかな貯金で生活していました。普段は週に一度ほど電話をする程度で、体調面でも特別な問題は聞いていなかったといいます。
「最初は、鍵を忘れたとかそういう話かと思ったんです」
ところが話を聞いていると、どうも様子が違いました。
「家の中にいるのに、玄関のドアが開かないのよ」
玲子さんは仕事を早退し、急いで車で実家へ向かいました。到着までにかかった時間はおよそ1時間半。その間も、母は何度か電話をかけてきたといいます。
実家に着いた玲子さんは、玄関の前で思わず足を止めました。
ドアの外側に、新聞や郵便物がいくつも差し込まれたままになっていたのです。ポストの中にもチラシが溜まっていました。
「母は普段、新聞は必ず取り込む人だったんです」
不思議に思いながらチャイムを鳴らすと、しばらくして母の声がしました。
「開けられないのよ……」
どうやら内側の補助錠がかかったまま、母がうまく解除できなくなっていたようでした。ドア越しに操作方法を説明し、しばらくしてようやく鍵が外れました。
ドアが開いたとき、玲子さんはもう一つの異変に気づきます。
玄関の床には、新聞や封筒が何通も散らばっていました。靴も脱ぎっぱなしで、普段きちんとしていた母の家とは思えない状態だったのです。
