相続財産の額に「嘘」が判明。再婚相手がまさかの…
「ところが、その弁護士を通じて、再婚相手が相続したいと言ってきているんです」「は?」「私も事情がよくわからないのですが、とにかくそういう連絡がきたので、先生に調べてもらえないかと思いまして」次男は困惑していた。当然だろう、一度は消えたはずのトラブルの火種が、急に大火となって迫ってきたのだ。
「わかった。すぐに調べてみる」私はそう言って電話を切り、弁護士に電話をかけた。相続放棄がどうなっているか確認しなければならなかった。
「ああ、レスラーさんの件ね。相続放棄の契約があるんですが、あれはダメ。通らないんですよ」「通らない。つまり無効ということですか?」「ええ。事前に契約を交わしているのですが、相続財産の額に嘘があったんです。実際の相続財産の額が本人の申告とかけ離れているんです」
弁護士によると、再婚相手と相続放棄の契約をしたときにレスラーさんは全財産が1000万円ほどだと言ったようだ。しかし、預貯金、土地、建物を合算してみると、実際には約5000万円の財産があった。遺産の額が跳ね上がった原因は土地である。工場兼オフィスのビルがある土地で、その名義がレスラーさんのものだった。
レスラーさんはおそらく、購入時の土地の値段で考えたのだろう。あるいは、会社を次男に譲ったことで、土地は自分のものではないと考えたのかもしれない。
「全財産が2000万円くらいだったなら夫人も文句なかったんでしょうけど、申告の額の5倍ですからね。これはダメでしょう」弁護士が言う。「そうですね」私はそう返し、電話を切った。
私は後悔した。レスラーさんから相続放棄の話を聞いたときに、私が内容を確認すればよかったと思った。「大丈夫だよ」あの時、電話口でレスラーさんはそう言った。しかし、大丈夫ではなかった。強引にでも約束を取りつけ、書類を確認すればよかった。私はひとつ大きく息をつき、次男に電話をかけた。
「結局、相続放棄とはならないのですか?」電話口で次男が聞く。