次男の悲鳴「殴られながら、我慢してつくったんです」
「ええ。法律上、彼女にも相続の権利がありますので」私はそう答え、彼女の法定相続分が2500万円であることと、再婚相手の遺留分について説明した。
遺留分とは、相続の権利を持つ法定相続人が受け取れる最低限の財産のことだ。相続の割合は法定相続分が目安となるが、一方で、亡くなった人の意思で自由に相続人や相続の割合を決めていいことにもなっている。
そのため、亡くなった人が「財産をすべて寄付する」「愛人に全財産あげる」といった遺言を書いていると、配偶者や子どもが相続できなくなってしまう可能性もある。それを防ぐためにあるのが遺留分だ。つまり、相続する人が最低限受け取れる割合を定めることで、相続人の権利を守っているわけである。
「なんとかなりませんか」「なんとか、とは?」「父の財産は、父1人がつくったものではありません。父には商才があったと思いますが、支えていたのは母親です。母親が日々殴られながら、我慢してつくった資産でもあるんです」「そうですね」
私は次男の気持ちがよくわかった。レスラーさんの妻は、結婚してからずっと我慢してきた。30年以上にわたる苦労を経て、5000万円という資産ができた。その資産の半分を、わずか数年だけ一緒に暮らした他人が相続する。これは次男にとって堪えがたい現実だった。「あとは話し合いです」私はそう伝えた。
法定相続分はあくまで目安であるため、その通りに分けなければいけないというわけではない。遺留分も相続人の権利を守るためのものであり、必ずしも権利を行使する必要はない。そのような点から見て、あとは相続人の間で話し合って決めるしかない。
「心情的には納得しがたいと思う。しかし、再婚相手がここ数年のレスラーさんの生活を支えたのも事実だ。最後は寝たきりのレスラーさんを介護していたし、レスラーさんの心の支えにもなっていた。そのことも加味して、話し合って決めることにしよう」「そうですね。わかりました」次男はそう言い、電話を切った。