「暴力的な父」警察に連行されることもあった父は…
よく言えば「豪快な商売人」。悪く言えば「暴力的なケチ」。レスラーさん(仮名)はそんな人であった。
東京の下町で生まれ育ったレスラーさんは、10代のころにレスリングを習い始めた。地域のアマチュア大会では何度も優勝しており、プロレス団体からスカウトされたこともあるという。
その後、プロの道は諦め、20代半ばで商売を始める。ハンドバッグの部品を作る会社だった。レスラーさんには、レスリングで鍛えた根性があった。また、もともと負けず嫌いで、それも商売に生きた。
性格面では、極度な倹約家だった。無駄なことにいっさいお金はかけない。酒は好きだったが、それ以外の贅沢もほとんどしない。そのような性格が幸いし、徐々にお金がたまり、会社も少しずつ大きくなった。40歳を少し過ぎるころには、会社は十数名の従業員を抱えるまでに成長していた。
私が会社の顧問税理士となったのはその頃のことだ。それからレスラーさんが亡くなるまで、かれこれ20年の付き合いになった。
レスラーさんは商売熱心な人だった。しかし、それ以外が無茶苦茶だ。気性が荒く、酒癖も悪い。飲みに出かけて喧嘩になるのは日常茶飯事だ。喧嘩相手をビール瓶で殴り、パトカーで連れて行かれることもあった。
家庭内暴力もひどいものだった。レスラーさんには奥さんがいて、会社では専務を務めていた。しかし、相手が女性であっても関係なく殴る。最近ニュースなどでDVという言葉をよく耳にするが、そんなもんではない。半殺しだ。そのせいで奥さんは何度も病院に担ぎ込まれていた。レスラーさん夫婦には息子が2人いて、彼らにも厳しく当たっていた。とくに長男には厳しく、しょっちゅう殴っていたという。