※ 本記事は、2017年6月23日刊行の書籍『人生を破滅に導く「介護破産」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。介護保険サービスの金額は、社会福祉法人サンライフの金額を参考に記載しています。実際の金額は利用する施設などへお問い合わせください。本来、施設の種類によって「入居」「入所」と書き分けるべきですが、文章の分かりやすさに配慮し、すべて「入所」に統一しています。

中流家庭の貯蓄を食いつぶす介護生活

介護の大きな問題点は、非常にお金がかかるということです。

 

あまり知られていませんが、ある程度ゆとりのある中流家庭でさえも、介護がきっかけで貧困へと転落する可能性があるというのが厳しい現実です。

 

ある程度ゆとりのある中流家庭でさえも… (画像はイメージです/PIXTA)
ある程度ゆとりのある中流家庭でさえも…
(画像はイメージです/PIXTA)

 

介護が必要になった高齢の家族がいる人からは、「本人の年金だけで介護費用をまかないたい」という言葉をよく聞きます。費用が最も安く済むのは、当然ながら、在宅で家族が介護にあたる方法です。しかしながら、高齢の両親と同居している子ども世帯は少なく、近年は夫婦共働きも多いため、子ども世帯の誰かが介護に専念するのは容易なことではありません。

 

そこで次に考えるのは介護施設を利用する方法でしょう。しかし、そこには予想外の現実が待ち受けているのです。

 

介護施設の中でも、とくに安く入所できるといわれる特別養護老人ホーム(特養)の場合、利用料金は入所者本人の要介護度と所得によって決まります。 親が一般的な会社員で定年まで勤め上げ、平均的な額の厚生年金を受給している場合で、要介護3になり特別養護老人ホームへ入所したとすると、ユニット型個室利用で月額18万円程度の費用がかかります。厚生年金の平均受給額は14万円程度であるため、年金以外に年間約50万円程度の負担が必要です。

 

しかし、年金収入とそのほかの所得が年間80万円以下だった場合、公的な補助があり、同じ要介護3でも月額8万円程度で入所できるため、負担は軽くなります。

 

なお、介護保険サービスを利用するためにはケアマネジャー(介護支援専門員)に適切な施設とサービスを提示してもらい、ケアマネジャーが立案したケアプランに基づいて利用しなければならないのですが、不誠実なケアマネジャーに出会ってしまった場合、高額な施設へと誘導されるケースもあります。

退職金3000万円、年金月額32万円でも安心できない!

2016年5月16日の読売新聞のオンライン記事では、ファイナンシャルプランナーの柳澤美由紀さんが以下のケースを紹介していました。

 

会社員男性Aさん(49歳)の両親は、Aさんの自宅から2駅離れた地域でふたり暮らしをしていました。2年前から母親の認知症と徘徊がはじまり、そのうち同居して介護していた父親の心労がピークに達して緊急入院してしまいます。

 

それを機に母親の施設入所を検討しますが、ケアマネジャーから「要介護2では特別養護老人ホームには入れない」といわれ、認知症専門の介護付き有料老人ホームを探したところ、月額28万円の施設が見つかり、母親を入所させました。

 

もともと共働きだった両親は、ある程度の蓄えがあり、合算で3000万円以上の退職金も受け取っていました。しかし、父親は月額28万円の施設利用料について「このまま払い続けることはできない」といいます。

 

Aさんの相談を受けて柳澤さんが試算すると、以前から両親ふたりの生活費は月額25万円以上かかり、臨時出費がある月は30万円を超えることもあることが分かりました。頼みの綱だった両親の退職金も、自宅のリフォームや旅行などの娯楽費に使って半分以下に目減りしていました。

 

父親の生活費を工面しながら、母親の施設利用料をこのまま払い続けるとなると、両親の貯蓄はあと10年で底をつく計算になります。

 

「10年分の蓄えがあるなら、なんとかなるはず」―そういいきれないのが、先が見えない介護の厳しいところです。幸いAさんは、さまざまな施設を探した末に料金の安い施設が見つかり、事なきを得ました。

貯金を切り崩しながら父親の施設利用料金をまかなう娘

もっと悲惨なケースもあります。 地方都市でパートとして働くBさん(40代女性)には、要介護2の父親(70代)がいます。父親は実家の一戸建てにひとりで暮らしており、週に3、4回ホームヘルパーに来てもらうことで生活が成り立っていましたが、ある日、家の中で転倒して大腿骨を骨折してしまいます。

 

2週間ほど入院し退院することになりましたが、リハビリをして、元の生活に戻るには時間がかかるため、病院が経営する居宅支援事業所のケアマネジャーから施設入所を勧められました。

 

その際、「施設はどこも順番待ちです。わがままをいっていたらどこにも入れませんよ」といわれ、勧められたのが、入院していた病院の系列で、月25万円ほどかかる介護付き有料老人ホームでした。

 

父親は自営業だったため、月額4万円程度の国民年金しか受給していません。本来なら費用の安い特別養護老人ホーム(特養)に入ることも可能でした。しかしBさんは有料老人ホームがどういう施設なのかよく調べないまま「病院のケアマネジャーがいうのだから間違いないはず」と承諾し、父親の年金と、自分のパート代の月16万円、さらに貯金を切り崩して介護費用を払うことになりました。

 

老人ホームでの生活は、いわば三食昼寝付き。毎回部屋まで食事が運ばれ、部屋にはトイレやシャワーが完備され、排せつや入浴の際は職員が介助してくれます。こうして父親は今まで自分でしていた身の回りのことすらなにもしない生活が続きました。入所後3カ月が経過した頃には、父親の体重はかなり増え、ADL(日常生活動作)が著しく低下し、要介護度も重くなってしまいました。

 

急激に衰えた父親の姿にBさんは愕然としました。 すると、今度はケアマネジャーから、このままでは父親は寝たきりになってしまう。リハビリに力を入れているいい施設がある――と、やはり入院していた病院の系列で他県にある山奥の施設への移動を勧められました。そんな遠方の施設に預ければ、父親に会いに行くことさえ簡単にはできなくなります。

 

まるで姥捨て山ではないかと、Bさんはそのケアマネジャーに不信感を抱きました。貯金も目減りし、そのままでは借金をしなければならないような状況でした。Bさんが知人に相談すると、ケアマネジャーは自分で選ぶことができると教えられ、Bさんは早速ケアマネジャーを替えました。

 

新しいケアマネジャーの助言に従って父親の年金受給額に見合った費用の安い施設に移すことで、借金を回避できた上、父親のADLも回復に向かったそうです。 Bさんの父親の場合、はじめからリハビリに力を入れている施設に入っていれば、3カ月ほどで自宅復帰し、元の生活を取り戻せたはずです。

 

このように、最適な介護サービスや制度を知らずにミスマッチを起こし、要介護者のADLの低下を早めたり、家族の経済的な困窮を招いてしまう例が多数あるのです。

 

 

杢野 暉尚

社会福祉法人サンライフ/サン・ビジョン 理事・最高顧問

 

人生を破滅に導く「介護破産」

人生を破滅に導く「介護破産」

杢野 暉尚

幻冬舎メディアコンサルティング

介護が原因となって、親のみならず子の世帯までが貧困化し、やがて破産に至る──といういわゆる「介護破産」は、もはや社会問題の一つになっています。 親の介護には相応のお金がかかります。入居施設の中でも利用料が安い…

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