老人ホーム全員の余命年数を作成した結果
私の、「なぜそんなに泣くのか」という問いかけに対し、介護職員は、生前、〝一緒に食事に行こう〟〝相撲をもう一度見たい〟などと言う約束をしていたが、約束をはたすことができなかったと言います。私が駆け出しの介護職員だったころ、先輩介護職員から、高齢者は持ち時間が少ない、だから「後で」とか「待っててください」は絶対NG、今すぐに実行にうつさなければならない、と言われたものです。
そこで私は、ホーム全員の余命年数を看護師の協力を得て作成しました。Aさんは、心臓に爆弾を抱えているからあと1年とか、Bさんは動脈瘤があるから半年ぐらい、などなど。
当初は多くの介護職員が「失礼だ」「何を考えているのか」と反発しましたが、不思議なもので、あと1年でこの世の中から消滅する人だという理解が進むと、その人を大切にしようという気持ちが生まれてきます。昨日まで、「何回も、たいしたことがないにもかかわらず、ナースコールばかり押して煩わしい」と思っていた人に対し、ナースコールがあれば喜んで飛んでいくようになっていきます。
人はいつまで続くかわからない介護よりも、終わりが見えている介護のほうが優しくなれるのではないでしょうか? 死を考えるということは、結果として、残りの時間を精一杯生きるために必要な情報なのだと思います。身近に死を感じ、死について考えることは、介護にとっても重要かつ必要なことだと、私は理解しています。
私が介護職員だったころは、入居者の死など口に出そうものなら、先輩や上司から烈火のごとく怒られたものです。死が身近に迫っている入居者に対し、死を連想させるようなことはけしからん、と。ましてやストレートな「死」などもってのほかだ、と。
しかし、私の経験では、多くの入居者は自身の死を受け入れ、待ち望んでいる人もいます。早くおとうさんのところに行きたいとか、そろそろ死んだ妻が迎えに来るころだとか、という発言は多くありますが、これは本心だと私は思っています。
もしよろしければ、一度、家族間で死について話をしてみてはどうでしょうか。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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