もし親を老人ホームに入居させるとして、まず第一歩として何を理解しておけばいいのでしょうか。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者が、親を老人ホームに入れようと思った時に「知っておきたい選び方、探し方」を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)から一部を抜粋、編集したものです。

精神的な悩みや苦しみは解決できない

少し説明を加えます。徘徊を伴う認知症の高齢者の場合、家族がその徘徊について悩み、苦しみ、振り回されているとしたら、お金を払って老人ホームに入居させてしまえば、その悩みは解決します。つまり、お金で解決できます。しかし、老人ホームへの入居をもって、家族が抱えていた「悩み」「苦しみ」から家族は解放されるのでしょうか?

 

小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)
小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)

肉体的な苦しみは解決するかもわかりません。しかし、精神的な悩みや苦しみは、解決することはできません。つまり、家族の心が晴れることはないのではないでしょうか? 一瞬、ひととき、忘れることはできたとしても、もやもやした気持ちの根本が解決することはありません。そういう意味で、大切なことはお金で解決することはできないと、私は考えています。

 

入居者家族の中には、老人ホームにさえ入ってしまえば、老人ホーム側がすべてを解決してくれるもの、と考えている家族も見受けられます。しかし、自分の親が老人ホームに入居したとしても、それをもって親子の縁が消えてなくなるわけではありません。

 

離れていても親子は親子です。私が老人ホームで介護職員として勤務していたころ、深夜に入居者の容態が急変し、病院へ救急搬送し、その事実を家族に知らせて病院へ行ってもらおうと促すと、「何時だと思っているのか。ホームで対応しろ」と言う家族がけっこういました。

 

当たり前の話ですが、病院の常識では、「付き添いが老人ホームの介護職員では話にならない。早く家族を呼んで来い」ということになります。家族は「老人ホームで対応しろ、そのために高い金を払っているのだ」と言い、病院は「他人では話にならない家族を呼べ」となり、間に挟まれた老人ホームは「家族なんだから、いい加減にしろよ」ということになります。

 

家族の気持ちもわからないことはありません。自分たちは仕事で忙しいので、本来、自分がやらなければならない介護をお金で買っているのだという考え方には、私は一定の理解を示すことができます。

 

少し話は違いますが、幼児を保育園に預けて会社に行くシングルマザーに対し、「子供が熱を出したので、今すぐ迎えに来てほしい」と連絡があったとします。親の気持ちを代弁するなら「会社に行く必要があるから、子供を保育園に高い金を払って預けているのだから、熱ぐらいで迎えに来いなんて言わないでほしい」と。

 

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親を老人ホームに入れようと思った時に読む本

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