新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

子どもたちは自分が育った街に愛着を感じない

工場勤務を終えると工場労働者たちは街中の飲食店で飲み食いし、買い物をします。その需要を当て込んで街中に商店街が形成されました。商店街には買い物がしやすいようにアーケードが設けられ、雨風が強い日でも安心して買い物ができるようになりました。

 

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

街は、商業と工場で働く労働者によって形成されていくようになります。この街の住民にさらに加わったのが事務系のサラリーマンです。サラリーマンが戦後急速にその数を増やしていったのは、すでにお話しした通りです。

 

また、三大都市圏を中心に地方から大量の人の移動が生じたために、地方からやって来たサラリーマンの多くは会社の周辺に住むことは叶わず、大都市郊外に住んで会社まで通勤をするようになります。この通勤の足となったのが、三大都市圏などに張り巡らされた鉄道網でした。

 

会社に通うために家を選び、会社中心のライフスタイルを選択してきたサラリーマンの多くにとって、街は自分が寝て、休息するための街でしかありませんでした。サラリーマンが住むニュータウンの多くがベッドタウンと言われた所以です。郊外や地方の農家などでは農作物を譲り合ったり、地域の行事を一緒に行なったりすることで深くて濃いコミュニティーが形成されてきました。ところがサラリーマンは会社とつながっているだけで、週のうちほとんど滞在していない街には、コミュニティーと呼ばれるようなものはなく、街に愛着が湧くはずがありません。

 

ニュータウンで生まれた子供たちも地元との関わりは、小学校や中学校に通うまでで、あとは塾やお稽古事に忙殺され、早い子は中学から、そうでない子も高校からは都心の学校に通う割合が増えます。その結果、多くの子供たちは自分が育った街に愛着を感じないと言います。就職後は自分たちの職場に近い地域のアパートやマンションを選び、親の家には戻ってきません。

 

こうした状況の背景は、街にコミュニティーが形成されていないことにあります。形成されるはずがないと言い換えてもよいかもしれません。ただ寝るための街、あるいは塾に通っただけの街に子供が愛着を感じることは稀です。また、親自身がもともとこの街で育ったわけでもなく、会社に通勤するために買った家にすぎないので、いざ定年退職をして自由な身となっても、さてどこに行ったら何があるのかさえもよくわからないという、情けない状況になるのです。街の良さも悪さも実際には一年中どっぷりと生活してみないと、何もわからないものです。

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