新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

企業城下町は工場を取り囲むように街が形成

人はいつ頃から街で生活するようになったのでしょうか。縄文時代においては、人は主に狩猟をして生活をしていました。狩りに出て獲物を追いかけ、石や矢、剣で倒し、食しました。この時代の人は、獲物がいなければ生活はできませんので、獲物を追いかけて住処をどんどん移動していきました。したがってみんなが寄り集まるような「街」は、概念としても存在しないものでした。この時代の働き手の主体は、大きな獲物を捕らえることができる屈強な男性でした。

 

やがて弥生時代になると、大陸から稲作が伝わり、人々は農耕をしながら生活するようになります。農耕は同じ地に留まって稲を育てなければなりません。人々は移動をやめ、農耕に適した地域に住みつき始めました。ただ、耕作地は広く、家と家との間には距離があり、街というものが形成されにくい環境にありました。この時代の有力な働き手はもちろん農民です。農民は屈強ではなくとも我慢強く、自然環境に順応しながら働くことが求められました。

 

ニュータウンで生まれた子どもたちは自分の育った町に愛着がわかないという。(※写真はイメージです/PIXTA)
ニュータウンで生まれた子どもたちは自分の育った町に愛着がわかないという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

奈良時代以降になると農耕から手工業生産が分離されるに従い、人々は農作物や手工業品を交換するために辻や津に集まって物品交換を行なうようになり、貨幣経済を基礎とした商業が発達するようになります。そして人が集まるところには徐々に市などが形成されていきます。商売は一カ所に集まったほうが効率が良いこともあり、街の形成を促したと言えます。主要な働き手としては農民に加えて商人が台頭します。

 

戦国時代以降は城の周辺に家来衆のみならず、鉄砲、刀剣などを造る鍛冶屋、桶屋、畳屋、呉服屋、家具屋などの職人や商人が集まって住むようになり、徐々に街としてのコミュニティーが形成されていきます。

 

街の発達に商業が果たした役割は大きなものがありましたが、明治時代以降、産業革命の影響が日本にも及ぶようになると、主要な働き手として登場するのが工場労働者です。工場労働者は工場という一つの職場が与えられ職場に毎日通うという、いわゆる「通勤」の形態を取るようになります。職場は近いほうが良いに決まっていますから、工場周辺に住みついて生活するようになります。国内には多くの企業城下町がありますが、これらの街にはたいてい大きな工場があり、工場を取り囲むように街が形成されています。

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不動産で知る日本のこれから

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牧野 知弘

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