新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

不動産の「利用」分野で始まるシェアリング

シェアリングエコノミーの中でも今後とりわけ大きな進展が起こりそうなのが、不動産の分野です。これまでの不動産でのシェアリングの考え方は、たとえばマンションにおける「土地は敷地権の共有、建物は区分所有」といった概念でした。あるいは投資用不動産としてオフィスビルなどの所有権の小口化商品、REITなどの不動産証券化商品といった投資用のものでした。

 

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

これらはいずれも不動産においては、「所有」を意味する中での区分所有や小口化でした。ところがこれからの不動産におけるシェアリングとは、不動産の「利用」に関するシェアリングの考え方が急速に高まってくるものと考えられます。これまで不動産は利用するという概念からの考察が比較的希薄でした。

 

デベロッパーやゼネコンは、良い土地の上に容積率いっぱいに優れた建物を建てればおのずと人が買ったり所有したりするだろうと、ある意味勝手に考えていたフシがあります。それはどんな顔をした顧客がどんな利用をする、それによって対価が変わってくるというものではなく、たとえば青山に建つマンションなら高級で高く売れるはず、だとか大手町のオフィスビルならば月坪あたり5万円の賃料は堅い、などといった地域の相場観に立脚したもので考えてきました。

 

ところがシェアリングエコノミーの世界では、同じ家でも複数の人で使えばよい、オフィスも1社で借りるのではなく、そのスペースが必要な会社や人が必要な時間帯だけ利用すればよい、オフィススペースでもあまり使っていないスペースがあれば、空いている時間だけ別の用途で利用する、個人住宅の駐車場スペースも車を止めていない時間帯はよその車に貸すなどといった、時間や空間を利用する概念になってくるのです。

 

こうした考えはすでに民泊やWeWorkに代表されるコワーキング施設などが世の中で市民権を得つつありますが、今後はさらに新しいサービスが続々生まれてくるものと考えられます。

 

そのいっぽうで既存の施設との対立も出てきそうです。民泊は既存のホテル、旅館との線引きを巡って大きな争いとなり、住宅宿泊事業法(民泊新法)を制定して、どちらかと言えば民泊を規制する方向となりました。またコワーキング施設はいずれオフィスビルオーナーとの間でテナントの奪い合いといった対立軸が顕在化するのも明らかです。多くのテナントがオフィスビルの床を縮小し、社員の多くは自宅近くのコワーキング施設で働けば事足りる、といった世の中が来ることが予想されるからです。

次ページシェアリングエコノミーは街づくりを変える
不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊

業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊

牧野 知弘

祥伝社新書

不動産が高騰し続けている。 銀座の地価は1980年代のバブル期を上回り、三大都市圏と「札仙広福」(札幌・仙台・広島・福岡)の上昇が著しい。国内外の投資マネーの流入、外国人富裕層の購入を背景に、超大型ビルや再開発の計画…

不動産激変 コロナが変えた日本社会

不動産激変 コロナが変えた日本社会

牧野 知弘

祥伝社新書

新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は大激変している。「不動産のプロ」であり、長く現場の動向を観察してきた著者は、そう断言する。いったい、何が変わるのか?たとえば、従来社員一人当たり三坪で計算されて…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録