不動産の「利用」分野で始まるシェアリング
シェアリングエコノミーの中でも今後とりわけ大きな進展が起こりそうなのが、不動産の分野です。これまでの不動産でのシェアリングの考え方は、たとえばマンションにおける「土地は敷地権の共有、建物は区分所有」といった概念でした。あるいは投資用不動産としてオフィスビルなどの所有権の小口化商品、REITなどの不動産証券化商品といった投資用のものでした。
これらはいずれも不動産においては、「所有」を意味する中での区分所有や小口化でした。ところがこれからの不動産におけるシェアリングとは、不動産の「利用」に関するシェアリングの考え方が急速に高まってくるものと考えられます。これまで不動産は利用するという概念からの考察が比較的希薄でした。
デベロッパーやゼネコンは、良い土地の上に容積率いっぱいに優れた建物を建てればおのずと人が買ったり所有したりするだろうと、ある意味勝手に考えていたフシがあります。それはどんな顔をした顧客がどんな利用をする、それによって対価が変わってくるというものではなく、たとえば青山に建つマンションなら高級で高く売れるはず、だとか大手町のオフィスビルならば月坪あたり5万円の賃料は堅い、などといった地域の相場観に立脚したもので考えてきました。
ところがシェアリングエコノミーの世界では、同じ家でも複数の人で使えばよい、オフィスも1社で借りるのではなく、そのスペースが必要な会社や人が必要な時間帯だけ利用すればよい、オフィススペースでもあまり使っていないスペースがあれば、空いている時間だけ別の用途で利用する、個人住宅の駐車場スペースも車を止めていない時間帯はよその車に貸すなどといった、時間や空間を利用する概念になってくるのです。
こうした考えはすでに民泊やWeWorkに代表されるコワーキング施設などが世の中で市民権を得つつありますが、今後はさらに新しいサービスが続々生まれてくるものと考えられます。
そのいっぽうで既存の施設との対立も出てきそうです。民泊は既存のホテル、旅館との線引きを巡って大きな争いとなり、住宅宿泊事業法(民泊新法)を制定して、どちらかと言えば民泊を規制する方向となりました。またコワーキング施設はいずれオフィスビルオーナーとの間でテナントの奪い合いといった対立軸が顕在化するのも明らかです。多くのテナントがオフィスビルの床を縮小し、社員の多くは自宅近くのコワーキング施設で働けば事足りる、といった世の中が来ることが予想されるからです。