新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

テレワークとリモートワークの違いは?

テレワークという言葉には歴史があると言ったのは、実はこの日本テレワーク協会がもともとは総務省、経済産業省、厚生労働省、国土交通省にまたがる、4省所管の団体であったことに起因しています。この協会は1991年1月に日本サテライトオフィス協会として発足していて、当初は企業に勤務するサラリーマンの在宅勤務やサテライトオフィスの活用に関する情報提供を目的としていました。その後SOHOが普及し、モバイルワークが進展する中、もっと広い意味でのテレワークの概念を取り入れ、名称を変更したものです。

 

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

この協会が発足する3年前の1988年、国内では富士ゼロックス、内田洋行、NTTグループ、鹿島、リクルートが中心となって埼玉県志木市の東武東上線柳瀬川駅前に共同のサテライトオフィスを設立しています。当時はバブル真っ盛りで、通勤電車も現在よりもひどい混雑ぶりでした。こうした就業環境を改善して自宅近くに勤務できるように、本社と同等の仕事が可能な情報通信設備を備えたオフィスを、志木市に設けたのです。

 

このサテライトオフィスは91年まで運用されますが、こうした大企業側の動きが日本テレワーク協会の活動につながっていったのだと推測されます。

 

これにひきかえリモートワークという言葉はどちらかといえばIT、ベンチャー企業などで多く使われる印象があります。Remoteとは「遠い」「遠隔」という意味がありますので、オフィスから遠く離れた場所で仕事をするということになります。もちろん在宅勤務も該当しますが、リモートワークという場合には、オフィス以外で自分や仲間が働きやすい場所を選んで仕事をする、という積極的な意味合いが強いようです。IT系の会社やベンチャー企業は必ずしもオフィスが主戦場の仕事ではない、というところに起因しているようです。

 

まとめてみますと、テレワークは仕事のメインはオフィスにあり、さまざまな理由によってオフィス以外の場所で働くことを意味し、こうした仕事を補完するものとして情報通信技術の活用が行なわれるものといえます。

 

これに対してリモートワークは、自らの思想、好みで、あえてオフィス以外の働き場を探してそこをメインとする考え方に基づくものといってよいでしょう。

 

したがって今回のコロナ禍で突然、国や自治体から「自宅で仕事をしてください」という要請を受けたことについては、リモートワークというよりも、やはりテレワークと呼んだほうが適切だといえそうです。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

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