新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

バブル崩壊のツケが回ってくるのは中小ビル

私が1989年に三井不動産に入社した頃は、平成バブルの絶頂期。配属になったのは、都心部に土地を持つ法人に対してサブリースビルの建設を企画提案する部署でした。多くの法人はそれほど広い面積を所有してはいないので、計画されるビルのほとんどがいわゆる中小ビルでした。それでもオフィスビル賃料はどのエリアでも「上がりっぱなし」。どんな企画案でもその事業収支は右肩上がりの、まさに「薔薇色」の収支でした。

 

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)

実際にいくつかのオーナーに提案書を持参して説明しながら、正直なぜこの提案書でオーナーが「うん」と言わないのか不思議に思ったものでした。


 
その後の平成バブル崩壊以降、都心部では中小オフィスビルの建設は減少しましたが、中小ビル市場には当然ですがそうしたビルを好む、あるいはそうしたビルにしか入居できない多数のテナントが存在します。

 

こうしたテナントが、緩くなった条件を餌に中型以上のビルに引き抜かれたのでは、中小ビルオーナーはたまったものではありません。


 
ところが中小ビルオーナーの多くは、この戦いに際してあまり形勢がよろしくありません。多くのビルが築30年から40年を経過しています。大手のビルと違って、建物の維持修繕をしっかりと行なっているところは正直あまり多くない、というのが実態ではないでしょうか。


 
また現実問題としてビルオーナーの多くが高齢化に直面しています。建物の老朽化とオーナーの高齢化がダブルパンチのようにビル経営を圧迫しているのです。事業承継を控えて、ビルオーナーの子息の多くは企業勤労者の道を選択しています。そして老朽化した建物を必要にして十分なだけの修繕を施す余裕のあるオーナーが少ないのが現実です。


 
ましてや最近の高い建設費を負担して、ビルを建て替えたところで現在のテナント賃料水準ではとうてい「採算が合わない」ことになります。

 

結果としてオフィスビル市場においてバブル崩壊の一番のツケが回ってくるのは、実は中小ビルオーナーなのではないかと睨んでいます。優良立地のビルであれば、大手資本に売却することも可能かもしれませんが、バブル崩壊時になれば価格は下落せざるをえません。それまで貸し込んでいた銀行からも、借入金の返済や条件変更を促されるかもしれません。そしてそうした圧力に耐えられるだけの体力が、彼らには残っていないのです。

 

多くの中小ビルが売却処分されたり、あるいは会社ごとM&Aされる姿がバブル崩壊後に見られることになりそうです。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

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