新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

インバウンドマネーは一部を日本で運用しているだけ  

今回のバブルが平成バブルと異なるもう一つの特徴が、インバウンド(外国人)マネーの流入です。

 

インバウンドマネーの特徴といえば、投資ファンドという形で日本のオフィスビルやレジデンス、商業施設や物流施設に投資をするのが一般的なスタイルです。そしてその原資は、多くが海外の年金基金などに代表される運用資金です。この資金は別に日本だけに投資を行なっているわけではありません。彼らは世界中に投資先を持っており、その中のごくわずかな資金を日本で運用しているのにすぎません。

 

投資ファンドは運用成績が悪ければ、すぐに損切りして「手じまい」をする。
投資ファンドは運用成績が悪ければ、すぐに損切りして「手じまい」をする。

 

したがって日本に対して特別な思い入れを持っているわけでもありませんし、運用成績が悪ければ、すぐに損切りして「手じまい」をするだけです。バブルが崩壊しても現地、つまり日本でこの資金を扱うファンド会社のマネージャーの首は飛び、会社は預かり資金が枯渇して解散あるいは倒産という憂き目に遭うかもしれませんが、彼らにとってはどうでもよいことです。

 

実際にファンドバブルともいわれた2005年から2008年にかけてもこうしたインバウンドマネーはファンドを通じて日本の不動産を買い漁りましたが、リーマン・ショックの発生とともに日本から一斉に手を引くことになりました。

 

当時、私はREITの運用会社の社長でしたが、仕事柄、外資系のファンド運用会社や外資系証券会社の人たちとはたくさんのお付き合いがありました。悲惨だったのは、そんな知り合いの一人がある日突然、会社の上司から呼び出され、解雇を申し渡されたのですが、やりとりは以下のようなものだったそうです。

 

「あなたはもう会社にいなくてけっこうです。今からパソコン、机の上、抽斗の中を含めて一切触れてはなりません。このままただちに会社から出て行ってください。荷物は会社でまとめて後日あなたの自宅に送ります。ではさようなら」

 

会社は彼を辞めさせるのにあたって、パソコン内の情報や会社の機密事項を持ち出すことを恐れ、解雇の瞬間から会社の資産に指一本触れさせずに退去することを命じたのでした。

 

彼に限らず、日を追ってそれまで第一線で活躍していた多くのマネージャーやディレクタークラスも、次々と解雇されていきました。彼らの給与水準はきわめて高く、激務の中でも六本木などでしょっちゅう羽目を外してけっこう派手に遊んでいました。そんな彼らもあっという間に首を切られる、これが外資系の掟なのです。

 

次ページ個人のインバウンドマネーはどう動くか
不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊

業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊

牧野 知弘

祥伝社新書

不動産が高騰し続けている。 銀座の地価は1980年代のバブル期を上回り、三大都市圏と「札仙広福」(札幌・仙台・広島・福岡)の上昇が著しい。国内外の投資マネーの流入、外国人富裕層の購入を背景に、超大型ビルや再開発の計画…

不動産激変 コロナが変えた日本社会

不動産激変 コロナが変えた日本社会

牧野 知弘

祥伝社新書

新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は大激変している。「不動産のプロ」であり、長く現場の動向を観察してきた著者は、そう断言する。いったい、何が変わるのか?たとえば、従来社員一人当たり三坪で計算されて…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧