新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

登記を行わず相続だけが繰り返される

対抗要件でしかないということは、所有者は別に登記をしなくてもかまわないということです。不動産は大切な財産であるから登記をすることはあたりまえに思えるかもしれませんが、登記するにあたっては登記費用がかかり、この負担額がけっこう馬鹿にならないのです。

 

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)

具体的には不動産の登記にあたっては登録免許税が課され、所有権保存登記の場合 は固定資産税評価額の0.4%、所有権移転登記は売買の場合2.0%(土地は現在1.5%)、相続等の場合は0.4%(新築住宅棟には軽減税率等の適用あり)などと規定されています。

 

これに加えて登記簿謄本代や司法書士に支払う報酬など、自らの所有権を表明するための費用は所有者に重たくのしかかるのです。よほどの良い土地で、第三者からの権利主張や権利の侵害を受ける危険性があれば別ですが、親から相続した山林や農地、訪れたこともないような、親が代々引き継いできた地方の土地などは、わざわざ多額の費用負担をしてまで「権利の主張」をしたいとは思わないのではないでしょうか。

 

こうして登記を行なわずに相続だけが繰り返し行なわれることで、現在の所有者がわからなくなってしまうのです。相続も相続人一人に相続されていけばまだしも、兄弟姉妹などの共有となることもあるし、そこでまた相続が発生してその子供たちや孫たちに相続されることもある。こうした過程で所有者はねずみ算式に増加し、やがてはまったく所有者のわからない土地へと化けていくのです。

 

同様のことは、空き家でも問題となっています。全国では現在約820万戸の空き家が存在しますが、野村総研の推定によれば、空き家のうち約25%相当の家は居住が不可能な状態にある、とのことです。

 

つまり、こうした空き家では所有者がまったく家の維持管理を行なわず放置している状態にあることを示しています。当然、地域の景観、治安、災害などで大きなリスクを抱えていることになりますが、そうした空き家ほど、すでに所有者が誰であるのか特定できないという問題に直面しています。

 

不動産バブル再来などという景気の良い話がある裏側で、まったく誰のものかがわからない「名無しの権兵衛」不動産がむくむくと成長しています。しかるべき対策を取らない限り、その対価は経済損失ばかりでなく、やがて地獄絵図を見ることにつながるかもしれないのです。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

不動産で知る日本のこれから

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牧野 知弘

祥伝社新書

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業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊

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