新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

九州の面積「所有者不明土地」の経済損失は

2017年6月、元総務相の増田寛也氏をはじめとした有識者で構成される民間組織「所有者不明土地問題研究会」が、衝撃的なレポートを発表しました。

 

このレポートによれば、2016年において国内には、不動産登記簿などから所有者を特定できない、いわゆる「所有者不明土地」がなんと410万haも存在するというものでした。この面積を聞いてもなかなかその広さを想像しにくいと思いますが、これを九州(約421万ha)とほぼ同じ面積といえばわかりやすいでしょう。

 

さらに同年10月、この研究会ではこの事態を放置していれば、2040年には所有者不明土地の面積はさらに増加を続けて780万haとなり、この面積は北海道の面積に匹敵する規模となる、との見解を発表しました。

 

所有者を特定できない「所有者不明土地」が急増している。(※写真はイメージです/PIXTA)
所有者を特定できない「所有者不明土地」が急増している。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

続けて、こうした土地の所有者が不明であることによる経済的損失額について、2016年における年間の経済損失額は1800億円にものぼり、このままの事態で推移するならば2017年から2040年までの累計の損失額は6兆円に及ぶ、との試算結果も公表しました

なぜこのように、土地の所有者がわからなくなっているのでしょうか。背景には不動産の所有に対する登記制度の問題があります。

 

土地は誰のものか? 古今東西、常に国の支配者と領民の間で問われ続けてきた問いかけです。日本では豊臣秀吉が行なった太閤検地が有名ですが、秀吉はそれまで、領主が各々支配する領地の村から勝手に年貢を納めさせていた体制を改め、検地を行なって土地の権利関係を把握し、国ごとに秀吉が朱印状で認めた石高を割り振ることで徴税を行なってきました。

 

現在は、不動産の所有者は不動産登記簿に自らの名前を「登記」することによって、「所有をしている」旨を表明することができるようになっています。しかしこれは法的にはあくまでも「第三者対抗要件」にすぎません。つまり所有者は、その土地に対する権利を主張してきた第三者に対して、自らが所有している旨の主張を行なうための対抗要件でしかないのです。

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不動産で知る日本のこれから

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牧野 知弘

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