「無意味な入院を防ぐ」というあり得ない言い分
同じく専門家会議の委員を務める押谷仁・東北大学大学院教授も、3月22日に放映されたNHKスペシャル『”パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか~』に出演し、「すべての感染者を見つけなければいけないというウイルスではないんですね。クラスターさえ見つけていれば、ある程度の制御ができる」「PCRの検査を抑えているということが、日本がこういう状態で踏みとどまっている」と述べている。
私の知る限り、このような学説を述べている専門家は海外にはいない。なぜ、厚労省関係者ばかりが、似たような発言をするのだろう。厚労省の意向を代弁していると考えるのが妥当だ。
厚労省医系技官のトップである鈴木康裕氏は『集中』6月号のインタビューで「陽性者の半分が疑陽性だとしたら、医療機関の病床を本当に必要でない人が埋めてしまうことになります」と、PCR検査の問題点を挙げて、検査を強く推奨しなかった理由を説明している。
この時、偽陽性が多発する理由として、検査の特異度※を99%と仮定している。これは、本来は陰性の検体の1%を誤って陽性としてしまうことを意味する。遺伝子工学を少しでも学んだ人なら、あり得ないコメントだ。
※特異度(とくいど)…臨床検査の性格を決める指標の1つ。ある検査について「陰性のものを正しく陰性と判定する確率」として定義される値である。
新型コロナウイルスは環境中に存在するウイルスではない。適切にプライマーを設定すれば、誤ってPCR検査が陽性になることは、検査のエラー以外では生じない。特異度は99%のように低くはない。もし、99.9%であれば、偽陽性は無視できるレベルとなる。
ちなみに、厚労省が日本赤十字社に依頼して実施した抗原検査の特異度は、このレベルだ。PCRの特異度はポリクローナル抗体を用いた抗体検査の比ではない。鈴木技監がPCRの限界を説明するに使った根拠は、医学的に不適切である。もし、鈴木技監の主張が正しければ、PCR検査が世界でこれだけ実施されているはずがない。日本政府の政策決定に、このような初歩的なミスがあれば、早急に是正すべきだ。ところが、その気配はない。
これは、日本国民に様々な弊害を生じている。ドイツ在住の知人は「ドイツのPCRの検査受容能力は、直近の統計で1日あたり17万件弱です。3月初旬には1日あたり1万件を切っていました。なぜドイツは増やせるのに、日本は出来ないのか不思議に思っています」という。さらに、「日本は空港で検査能力が低いので、往来を再開できない」そうだ。
はたして、このような状況はどの程度、国民に伝わっているだろうか。