PCR検査の必要性を否定する裏には「特殊」な関係が
『サンデー毎日』7月12日号に掲載された岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長のインタビュー記事で、岡部氏は「第2波、ワクチンは不明でもPCR検査信仰は消える」とコメントしている。
私は、この記事を読んで驚いた。なぜなら、岡部氏は「普通の学者」ではないからだ。2013年まで国立感染症研究所(感染研)感染症情報センターでセンター長を務めた幹部であり、同年、川崎市健康安全研究所所長に就任している。政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の委員でもある。
感染研は厚労省の内部組織で、感染症情報センターは、保健所と並び、感染症法に規定された厚労省の感染症対策の中核だ[図表1]。新型コロナウイルス対策でも中心的な役割を果たす。つまり、政府の新型コロナウイルス対策の中心人物が、PCR検査の必要性を公に否定していることになる。
ちなみに、川崎市健康安全研究所とは、自治体が運営する地方衛生研究所だ。感染症だけでなく、環境や食品衛生の分野まで広く検査業務を担当する。新型コロナウイルス対策でも、保健所と並び、検査業務を担当する。地衛研は、歴史的に感染研とのつながりが強く、幹部には感染研OBが少なくない。岡部氏も、その1人だ。
新型コロナウイルス対策の検査業務を担う感染研・保健所・地衛研は1つの共同体を形成している。そして、このような共同体を取りまとめるのは厚労省だ。担当部署は感染症法を所管する健康局結核感染症課である。
同課は「新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業」を所管するが、2019年度に岡部氏は「HPVワクチンの安全性に関する研究」として3,130万円を受け取っている。米国立医学図書館データベース(PubMed)を検索した限りでは、岡部氏が発表したHPVワクチンに関する論文は2014年と18年の2報だけだ。いずれも国内の現状を総括したもので、HPVワクチンの専門家とは言いがたい。彼らの「特殊」な関係がご理解いただけるだろう。
学者が、どんなメディアにでて、なんと言おうが学問の自由だ。ところが、岡部氏は「普通の学者」とは言いがたい。「厚労省の関係者」と表現していい。普通に考えて、彼の発言は厚労省、特に検査体制を担当する医系技官の意向を反映しているだろう。
PCR検査の拡充に反対するのは、厚労省関係者は岡部氏だけではない。