新型コロナの重症化リスクにも影響…「1日10分の運動」が健康長寿に繋がる【医師が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

外出自粛やテレワーク、オンライン授業といった感染症対策を長期間に渡って講じる中では、どうしても運動量が減りがちです。「運動不足」は、肥満や高血圧、心疾患や脂質異常症といった慢性疾患の発症リスクや、死亡リスクを高める要因のひとつ。さらには、新型コロナウイルスの重症化リスクにも関係していることが明らかになってきました。米国在住の大西睦子医師が、最新の知見を基に解説します。

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「ちょっとした運動」がもたらす、侮れない健康効果

2022年が始まり、1ヵ月が経ちましたね。新年の抱負に「今年こそ、健康のために運動する」と誓ったけど「まだはじめていない」「すでに挫折した」という方はいらっしゃいませんか? もしかすると、目標を高く設定しすぎているのかもしれません。

 

たとえば、欧米のガイドラインは「週150分以上の運動」を推奨しています。そこで、これまでの多くの研究は、そのガイドラインの目標に達したかどうかで評価しています。そんな中、米国立がん研究所(NIH)ペドロ・セイント-モーリス博士らは、「ガイドラインに満たさなくても、適度な運動がどれだけの死を防げるか」を調査し、2022年1月24日の米医師会雑誌(JAMA)内科学に報告しました(※1)

 

博士らの研究の対象は、40歳から85歳までさまざまな人種の男女4,840人。研究では、参加者の2003年から2006年の国民健康栄養調査(NHANES)と7日間の活動量計のデータを組み合わせ、2015年末まで利用可能な全米死亡指数のデータを比較しました。そして年齢、学歴、喫煙、ダイエット、ボディマス指数(BMI)などの要因を考慮して解析しました。

 

その結果、米国のすべての成人が「1日10分、20分、30分と運動を増やせば、1年あたりの死亡数がそれぞれ6.9%、13.0%、16.9%も回避される」「もしすべての成人が1日10分の運動をすると、全米で年間11万1,174人、さらに20分では20万9,459人、30分では27万2,297人の死亡が回避される」可能性が示されました。

 

NIHのニュースは「この研究では、因果関係を明らかにすることはできませんでしたが、これまでの研究で、身体活動が健康を改善し、心血管系疾患、糖尿病、一部のがんなど、早死にの原因となるいくつかの慢性疾患のリスクを低減することが示されています」と指摘します(※2)

 

つまり、ちょっとした運動が、長生きに大きな効果をもたらすのです。

 

※1 https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2788473

※2 https://dceg.cancer.gov/news-events/news/2022/deaths-prevented-exercise#:~:text=Dr.,111%2C174%20preventable%20deaths%20per%20year.

米国では、成人の「4人に1人以上」が運動不足だが…

それでは、実際どのくらいの人が運動不足なのでしょうか?

 

米疾病対策予防センター(CDC)の発表(2022年1月20日)によると、4州を除くすべての州で成人の5人に1人以上が運動不足、米全体では25.3%が運動不足でした(※3、4)。CDCの栄養、身体活動、および肥満部門のディレクターであるルース・ピーターセン医学博士は「十分な運動をすることで、10人に1人の早死にを防ぐことができます」「睡眠の改善、血圧と不安の軽減、心臓病、いくつかのがん、認知症(アルツハイマー病を含む)のリスクの低下など、身体活動の健康上の利点を見逃している人が多すぎます」と語ります。

 

※3 https://www.cdc.gov/media/releases/2022/p0120-inactivity-map.html

※4 https://www.cdc.gov/physicalactivity/data/inactivity-prevalence-maps/index.html

 

■日本人は「アメリカ人よりもっと運動不足」

運動不足は米国人だけではありません。

 

2019年の厚生労働省の報告によると、20歳以上の日本人で運動習慣のある人の割合は、男性で33.4%、女性で25.1%。この10年間で男性は有意な変化はありませんでしたが、女性は減っています(※5)。年齢別では、男性では40歳代、女性では30歳代で最も低く、それぞれ18.5%、9.4%。ここでの「運動習慣のある人」は、1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している人のことを示します。

 

つまり、日本人においては成人男性の3人に2人、成人女性の4人に3人が運動不足ということになります。

 

※5 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf

運動不足は「新型コロナの重症化リスク」にも影響大

カイザー・パーマネンテ医療センターロバート・サリス博士らは、2021年10月の「英国スポーツ医学会誌(BJSM)」に、パンデミック前の2年間に、つねに運動不足の新型コロナの患者は、定期的な運動をしている患者よりも、入院率、集中治療室(ICU)の必要性、さらに死亡する確率が高いことを報告しました(※6)

 

新型コロナの重症化のリスクとして「高齢、男性、糖尿病、肥満、心血管疾患などの基礎疾患」は知られています。ところが「運動不足」はそれらの基礎疾患のリスクになりますが、新型コロナの重症化のリスクに含まれていません。

 

サリス博士らは、新型コロナの重症化への「運動不足」の影響を調査するため、2020年1月から同年10月にかけて新型コロナに感染した成人48,440人を対象に、「入院率、集中治療室(ICU)の必要性、死亡」などの経過を比べました。

 

患者の平均年齢は47歳、ほぼ3分の2が女性(62%)、ボディマス指数(BMI)は31(これは肥満に分類)。約半数は、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心血管疾患、腎臓病、がんなどの基礎疾患はありませんでした。ほぼ5人に1人(18%)は1つ、ほぼ3分の1(32%)は2つ以上の基礎疾患をもっていました。

 

研究者らは、患者の2018年3月から2020年3月の間の身体活動のレベルを、「つねに運動不足(0~10分/週)」「何らかの運動する(11~149分/週)」「定期的に運動する(150分以上/週)」に分類しました。

 

調査の結果、約7%は定期的に運動していました。15%はつねに運動不足で、残りは何らかの運動をしていました。全体の約9%が入院し、約3%が集中治療を必要とし、2%が死亡しました。

 

さらに研究者らが、人種、年齢、基礎疾患などの要因も考慮して解析すると、つねに運動不足の患者は、定期的に運動する患者に比べて、「入院する可能性が2倍以上、集中治療室(ICU)の必要になる確率が73%高く、感染症で死亡する確率は2.5倍高い」ことが分かりました。また、つねに運動不足の患者は、何らかの運動をしている患者に比べて、「入院する可能性が20%高く、集中治療室(ICU)の必要になる可能性が10%高く、感染症で死亡する可能性が32%高い」ことが分かりました。

 

研究者らは、次のように考察します。

 

「つねに運動不足であることは、年齢と臓器移植の既往を除いて、CDCが特定した基礎疾患や危険因子のどれよりも、新型コロナ感染症が重症化する危険因子であることは注目すべきことです。実際、運度不足は、喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、心血管系疾患、がんなどの危険因子と比較して、すべてのアウトカムにおいて最も強い危険因子でした」

 

「定期的な運動は、免疫機能を高めることはよく知られており、定期的に運動している人は、ウイルス感染症の発症率、症状の強さ、死亡率が低いことが分かっています。定期的な運動は、新型コロナ感染症による肺の損傷の主な原因である全身性の炎症のリスクを減らします。さらに、肺活量が増えて、心血管系や筋肉の機能が改善されることで、感染症の悪い影響が減るかもしれません」

 

※6 https://bjsm.bmj.com/content/55/19/1099

「1日10分」でいい…まずは「はじめること」が大事

忙しくて、運動する「時間がない」という方がいらっしゃると思います。ただし、まず「1日10分」ならそれほど無理しなくても時間を見つけられると思います。

 

体を動かすことが苦手という方は、まずは歩くことからはじめてください。自分の好きなペースで構いません。高額な会費を払ってジムに入会したり、激しいトレーニング、特別なスポーツウェアや靴を準備したりする必要はありません。ご自身のライフスタイルにあった、楽しんでできることなら今日からできますよね。

 

楽しみや喜びとなれば、少しずつ時間が増えて、自然に毎日22分、または週に5回30分の運動(これは米国人のための身体活動ガイドライン、「成人は毎週少なくとも150分の中強度の運動」に匹敵しますね)が、そのうち習慣になりますよ。

 

 

大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

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    星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員 内科医師、医学博士

    米国ボストン在住。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年から13年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員。

    【主な著書】
    『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)
    『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)
    『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)

    著者紹介

    医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

    著者紹介

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