不動産の一般な売買方式である「相対取引」は、しばしば業者のリードで進みがちなため、売主が不利になりがちです。どのような点に注意すべきでしょうか。本記事は『増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

売主は往々にして「適正価格」を把握できない

土地や建物の価格は、一定のルールによって決まってきます。ルールに基づいて算出された価格が、いわゆる相場となる価格です。不動産の売却で売主側が不利になりがちな原因は、実はこの「相場価格」にあります。

 

どういうことかと言うと、交渉の最初の時点で売主と買主となる宅建業者あるいは、仲介をする宅建業者の情報格差により、売主は往々にして適正な価格を把握できていないことがあります。

 

不動産の売却で、不動産業者や宅建業者が一般的に行っている売買のやり方は、「相対取引」という方式です。相対取引というのは、売主、買主の二当事者同士、一対一で売買交渉を行うものです。売主(あなた)と買主は不動産業者のことも、一般エンドユーザーの場合もありますが、宅建業者を間に介在して交渉をすることで、売却価格や条件、引き渡し時期などを決めて契約します。一般的な中古市場では、本やブランド品などが幅広く認識されていますが、そういった中古買取の客と店主の取引が、「相対取引」の最も分かりやすい形と言えるでしょう。

 

宅建業者は、自ら不動産の売買や仲介などを行う業者です。宅地建物取引業は、法律によって国土交通大臣、または都道府県知事の免許を受けた人しか営業できません。

 

相対取引では、買主が「買いたい値段」を提示してきます。こちらが「いくらで売りたい」と言っても、相手がNOと言えば交渉決裂です。

 

「買いたい値段」は相場価格をベースに、個別の条件を加味してプラス・マイナスをしていきます。例えば角地は市場で人気があるので少し高くなったり、不整形の土地は使いづらいので安くなったり、取り壊しが必要な古家が建っていると取り壊し費用を差し引かれたりといったことです。

 

基本的にはマイナスの要素が指摘されがちで、宅建業者の査定価格は下がる傾向にあります。仮にプラスに働く好条件があっても、売主が気づいていなければ、あえて黙っておかれる場合さえあります。

交渉を早くまとめたい業者に、取引を強引に進められ…

業者リードの相対取引では、売主が不利になりがちな落とし穴が他にもあります。それは、業者が交渉を早くまとめたいがために、取引を強引に進めてしまう場合です。

 

例えば、不動産売買の仲介業者がいて、売主と買主の両方を手掛けているケースはよくあります。

 

こういうとき、宅建業者は変に話をこじらせて長引かせたくありません。時間をかけて交渉をまとめても、自分たちが受け取る手数料は同じだからです。だったら、早くまとめてしまいたいという考えを持つ業者がいるのは不思議ではありません。

 

すると、業者は売主と買主のどちらの肩も持たなくてはならないため、双方から文句が出にくい価格を設定してきます。こうなると、不動産の適正価格というよりは、話がまとまりやすい価格が優先されてしまいます。つまり、相場よりやや安めの価格です。

 

売主側にも事情があって、一刻でも早く売ってしまいたいという場合には、お互いの利害が一致していますから何の問題もないでしょう。むしろ、歓迎すべきことかもしれません。しかし、売主が時間的に売却を焦っておらず、適正価格で売りたい、高く売りたいという場合には不満が残ることになります。

 

渋い顔をする売主に対しては、「東京オリンピック前の今が売り時ですよ」とか「今の買主を逃すと、次いつ見つかるか分かりません」と説得してくることもあります。不動産のプロからそう言われると、そんな気がしてくるものです。結局、売主の中には「本当にこれでいいのかな」と迷いながらも、契約書にサインをすることになる人が大勢います。これでは売主が多くの利益を得られません。

 

実は、不動産の売買ではこういうことがよく起こっています。宅建業者は自分の手札は見せてきませんから、裏で何が行われているか分からないまま、なんとなくスッキリしない状態で話が進んでしまいがちなのです。これは売主も買主も同じことです。

 

後々まで「あれが適正価格だったのだろうか」のモヤモヤを残さないためには、取引の透明性が大事になってきます。

「目立って高い査定額」を出す業者のやり口

査定額を低めに設定して早く交渉をまとめようとする仲介業者がいる一方で、あえて高めの査定額を提示してくるパターンもあります。

 

比較サイトで複数の価格査定を比べた場合などで、他よりも目立って高い査定額が提示されることがあります。売主は少しでも高く売りたいわけですから、その業者に依頼をしたくなるでしょう。しかし、それこそが相手のねらいです。

 

魅力的な査定額は、物件を自分のところに引きつけておくための手段です。甘い蜜を用意して、そこに何も知らない売主が寄ってくるのを待っているのです。

 

ところが、高い価格のままでは、買手は当然つきにくくなります。売れないまま時間だけが過ぎていきます。売主がしびれを切らしたり、「本当に売れるのだろうか」と不安になったりしたところで、業者からディスカウントの提案がされます。「このまま高値で待っていても売れません。どうでしょう、価格を下げてみませんか。価格を下げれば、買手も見つかりやすくなりますよ」と言ってくるのです。売主も売れなければ仕方がありませんから、ディスカウントに応じるしかありません。結局、当初の高値では売れず、じわじわと値下げをしていって相場そこそこに落ち着くわけです。

 

もちろんこれは望ましいことでありませんが、ビジネスとして許されているやり方で、決して業者が法を犯しているわけではありません。ただし売主側の視点からすると、〝おいしい夢だけ見させられた〟気がして、がっかり感や不快感が残るでしょう。

 

さらに言うと、不動産業者Bが売主Aから安く買い取った不動産を、知り合いの業者Cに転売するといったやり方が裏で行われているケースもあります。

 

これは「ころがし」といわれる取引です。AB間の売買の仲介をした宅建業者が、BC間の仲介もして一粒で二度おいしいという取引をすることがたまに見受けられるのです。

 

最初から「ころがし」を目指す仲介業者は、AからBへの所有権移転登記を省略して登記費用を節約するため、AからCへの移転登記を行うために「第三者のためにする契約」あるいは「(Cへの)契約上の地位の譲渡」をAB間の売買契約書で認めてほしいといってくることがあります。

 

このようなことをいってくるのは「ころがし」をするためです。ころがし取引が成立するのは、AB間の売買価格が適正な価格ではないこと、端的にいえば安すぎることが大きな原因です。

 

査定が高値だからといって、売主にとってベストな業者だとは限らないということです。「査定が高い」ことと「実際に高く売れる」ことは別問題だと覚えておきましょう。

仲介業者の「専任媒介契約」に要注意

高い査定額で引きつけておいて、最終的にはディスカウントに持っていくというやり方をする業者に多いのは、「専任媒介」の契約をセットにしてくるパターンです。

 

宅建業者との契約には、「専属専任媒介」「専任媒介」「一般媒介」の3種類があります。専属専任媒介は現実にはほとんど行われていないので、ここでは割愛します。一般に行われているのは、「専任媒介」と「一般媒介」で、売主は宅建業者とどちらかの契約を結ぶことになります。いずれも業者が提供するサービス内容とそれに対する報酬(仲介手数料)を約束するための契約です。

 

基本的な契約内容は同じですが、それぞれに特徴があります。

 

①専任媒介契約

売主が他の宅建業者に重ねて媒介等を依頼することを禁止する契約。

 

②一般媒介契約

複数の宅建業者に同時に媒介等を依頼することができる契約。最終的には、売主の希望条件に合った買主を見つけた宅建業者を通して取引を進めることになります。

 

専任媒介契約が必ずしも悪いわけではありません、当然メリットもあります。例えば、売主と特定の業者がパートナーシップを結んで物事を進めていけるので、安心感があり、また、媒介契約を締結した宅建業者が誠実であれば熱心に売ってくれます。本当に高値で売る力のある業者となら専任媒介も悪くないでしょう。

 

一般媒介のメリットは、宅建業者同士での競争が高まることです。業者は契約を成約させたいので、他社よりも高く買い取ってくれる買手を頑張って探してきます。そうして最終的に一番条件のよい買手と取引を進められるので、売主としては有利です。

 

ただし、一般媒介のデメリットとしては、不動産会社との結びつきが弱くなりがちな点があります。あまり魅力的な物件でないと、「どうせ頑張っても、さほど自分たちの利益にならない」と思って物件に執着がなくなり、各宅建業者の取り組みが希薄になってしまうおそれがあるのです。

 

いずれを選ぶにしても、自分にとって不利にならない契約の仕方を検討したいものです。どちらか迷ったら、基本的には「一般媒介契約」を選ぶことをお勧めします。私が自分の不動産を相対取引で売るとしたら、一般媒介にします。3社ほどに並行して相談し、競争してもらうと失敗が少ないでしょう。

業者リードで進められる相対取引…自衛は難しい

相対取引は、売主と買主がそろったところからスタートします。そこから不動産の精査に入り、細かい引き渡しの条件を決めていくことになります。両者がよく話し合い、お互いに納得したうえで契約を交わしたとしても、後から不動産に大きな問題が見つかって、契約が解除になったり、売主が賠償金を負わされたりするケースもあります。

 

例えば、土地の境界の問題です。隣の土地との境界がはっきりしない土地は、売ろうと思っても売ることはできません。売主が勝手に「ここまで」と境界を決めるわけにはいかず、隣人と話し合いをして境界を確定しなくてはならないからです。隣人との話し合いがまとまらないと、賠償金を支払ったり契約解除になったりすることもあります。

 

あるいは、私道が絡む問題もあります。私道の法的な所有者が誰かがはっきりしないと権利者から通行掘削承諾がとれず上下水道工事もできません。土壌汚染のある土地も問題です。汚染された土地はそのままは使えませんから、土を入れ換えるなどの改良をしなくてはなりません。

 

こうした難点や問題点を売主が知っていながら隠したまま売ってしまうと、後から問題が発覚したときに必ず揉めます。売主が問題点に気づかずに売ってしまった場合でも、物件に欠陥があれば売主は責任を問われます。せっかく思い通りの値段で売れても、後から賠償金を払ったり契約解除になったりしたら、売主は大きな痛手を負うことになってしまいます。

 

こういうとき、宅建業者の腕や誠意が問われます。誠意のある腕のいい宅建業者なら、不動産の問題点に気づいた時点で交渉を一旦ストップし、問題をクリアしてくれるでしょう。そして、「キレイな不動産」にしてから交渉を再開し、双方ともに納得のいく解決に導いてくれるはずです。もっと言えば、交渉に入る以前の段階で不動産の問題点に気づいて、トラブルにならないような交渉をするなどして、未然に防いでくれるはずです。ただ残念なことに、必ずしもそういう業者ばかりではないのが現実です。

 

自分の利益優先で早く取引を終わらせたい業者になると、「売主が悪いから賠償してください」とか「仕方がないから、もっとプライスダウンして買手に納得してもらいましょう」などと言ってきます。そうなると、売主は利益を守ってもらえず、泣き寝入りです。

 

不動産の売却はとにかく業者リードで物事が進みがちで、当初の希望売却価格とは程遠い値段で終結してしまうことが多いのです。「不動産の価値について正しく知らない」「不動産売却における業界ルールを知らない」「売却対象不動産の問題点に気がつかない」というのは、実はとても恐ろしいことなのです。意地悪な言い方をすれば、業者にとって〝良いカモ〟にされてしまうことがあるということです。

 

 

土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役
不動産鑑定士

 

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    土屋 忠昭

    幻冬舎メディアコンサルティング

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