相続、終活、離婚など、さまざまな理由で「不動産を売りたい人」が増えています。しかし、「思ったよりも安かった」「業者に買いたたかれてしまった」というパターンは少なくありません。なぜ不動産は安く買いたたかれてしまうのでしょうか。希望通りの価格で売却する方法ないのでしょうか。本記事は『増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

不動産を売りたい理由は、大体6つに集約される

人が物を売ろうとするとき、そこにはいくつかの理由があります。

 

例えば、テレビで物を売りたい人と物の査定をする店主とのやり取りを撮影したドキュメンタリーが流れることがありますが、それを見ていると、だいたい客側は、現金化して他のものに買換えたい、生活費等の足しにしたい、また家に物が多くなってきたので整理したいという方が多いようです。

 

筆者のもとには日々、不動産を売りたい人たちから多くの相談が舞い込みますが、その動機や理由を大きく分類すると次のようになります。

 

① 遊休資産:使用していない不動産の売却

② 相続財産:相続した不動産の売却

③ 共有状態の解消:処分に共有者全員の同意が必要な不動産の売却

④ 終活:生前に自宅を引き払いたい高齢者

⑤ 業績不振・後継者不在:事業所の清算

⑥ 離婚:夫婦の共有名義で購入した不動産の売却

 

これが不動産を売りたい人の6大理由と言っていいでしょう。それぞれについて具体的に確認していきます。

子どもが独立、親は老人ホームに…空き家が急増

理由① 遊休資産:使用していない不動産の売却

 

空き地や空き家で、使っていない不動産、いわゆる遊休資産を売ってほしいと依頼されるケースです。少子高齢化のため、空き家はますます増えており、首都圏でも周辺部では、その傾向ははっきり現れています。

 

一人か二人しかいない子供が独立し、残された親が亡くなるか老人ホームに入ったため空き家となるケースが激増しています。

相続税が支払えなくて売却するケースも

理由② 相続財産:相続した不動産の売却

 

高齢化が進むにしたがって相続の発生件数は増えています。そんな相続をきっかけとして不動産が手に余ってしまい、相談に来るケースが少なくありません。

 

例えば、地方に住む親の自宅を、都会に住む子どもが相続するケースです。子どもの生活はすでに都会にありますから、地方の家をもらっても転居するのは現実的ではありません。誰も活用しないまま、ただ所有していても固定資産税がかかるばかりなので、売ってしまいたいという相談です。

 

あるいは、不動産の分割をめぐって相続人同士で揉めてしまい、にっちもさっちも行かなくなったので、現金化してお金で分割したいという希望もあります。

 

不動産が一切絡まない相続というのはあまりなく、自宅はほとんどの場合どうするか考えなければいけませんし、他にも投資物件、事業用物件など何かしらの不動産があることも多いものです。相続と不動産はセットと言ってもよいくらい、どの家庭にも当てはまる問題なのです。

 

法制審議会(法相の諮問機関)で、相続法の改正案が審議されてきましたが、約40年ぶりに相続法が改正されました。

 

ア  配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住している場合に、配偶者は遺産分割等において配偶者居住権を取得することにより、終身または一定期間、その建物に無償で居住することができるようになります。被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます(令和2年4月1日施行)。

 

イ  婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産の遺贈または贈与がされた場合については、贈与または遺贈分について遺産の先渡しと取り扱わないため、原則として、遺産分割における配偶者の取り分が増えることになります(令和元年7月1日施行)。

 

ウ  自筆証書遺言について、財産目録を手書きで作成する必要がなくなり、パソコンで作成したり、通帳のコピーや登記事項証明書等を添付することもできることとなりました。ただし、偽造防止のため財産目録に署名押印は必要です(平成31年1月13日施行)。

 

エ 法務局で自筆証書遺言を保管する制度が創設されます(令和2年7月10日施行)。

 

オ  遺留分を侵害された者が遺留分減殺請求権を行使しても、相続不動産の共有状態は生じず、遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができるようになりました(令和元年7月1日施行)。

 

ちなみに、相続税が発生するケースでは、納税の問題も見逃せません。相続税の納税は、相続発生を知った日の翌日から10カ月以内に現金で一括納付が原則です。納期までに納めなかった場合は、延滞税がかかります。

 

納税額分のキャッシュが手持ちにない場合は、借金するなり物を売るなりして調達することになります。現金の代わりに動産・不動産などで納める「物納」や、納税を分割払いで行う「延納」などの方法もありますが、いずれも条件が厳しく、納税者が希望したからといって簡単には認められません。

 

現実的には、相続不動産を売却し現金化して納税に充てるという道が第一選択になります。

 

実際、「相続税の支払いに窮したために、相続不動産を売却したい」という相談は多々あります。大きなまとまったお金を速やかに用意しようと思うと、どうしても不動産が売却の対象になりがちなのです。

 

家を売る理由は人によって様々
家を売る理由は、人によってさまざま

不動産のまま分割するのは難しい

理由③ 共有状態の解消:処分に共有者全員の同意が必要な不動産の売却

 

不動産は共有状態のままでいると、多くの問題が起こり得ます。例えば、4人で土地を所有している場合、それぞれの所有権は「持分」という割合で決まっています。4人が平等に4分の1ずつ持分を所有している場合や、各人で持分に偏りがある場合などパターンは様々ですが、いずれにしても4人で全体を所有しているという状態です。

 

つまり、どこからどこまでがAさんの持分で、ここからここまでがBさんの持分というような物理的な線引きはされていません。このことがトラブルの元になってしまうのです。

 

分かりやすく言うと、土地の共有は「1ホールのケーキを丸ごと4人で持っている」ようなものです。4分の1ずつカットされていれば、自分の分を食べようと、他人に譲ろうと、捨ててしまおうと、その人の自由ですが、4人で1ホールとなると、そうはいきません。自分は「ケーキなんかいらない。人に売ってしまいたい」と思っても、全員の合意がなくては自由にできないのです。

 

4人の所有者のうち3人が「この土地はもう活用することができないから、売ってしまおう」と判断したとしても、残りの1人が「まだ売りたくない」と反対したら、売ることはできません。こうしたケースでは、売りたい3人と所有を続けたい1人とで、いざこざが起こるリスクが高いのです。

 

このように、共有状態の不動産は、活用するにしても売却するにしても、何かにつけて全員の同意が必要となりますから、それだけ流動性が低く、活用の範囲も狭まってしまう使いにくい資産ということになります。

 

そこで、それを解決するための1つの選択肢として出てくるのが、売却による換金をして、お金で分割するという方法です。

 

不動産のまま分割するという選択肢もあるにはありますが、不動産が簡単には分けられないということを考えなければなりません。土地で言えば単純に4分の1ずつの面積で分ければいいと考えるかもしれませんが、道路に面した部分と道路から奥まった部分では、使い勝手も市場価値も変わってきてしまうので公平に分割するのが難しくなります。何とか金額的に等分になるように計算して分けたとしても、分割の結果、土地が狭くなってしまうと価値が低くなってしまうこともあります。

 

そういった点を踏まえると、現金にしてしまえば、価値は変わらないままいかようにも分けられますから、所有者同士で不平不満が出にくく、すっきりと片づきやすいのです。

 

ちなみに、このような不便な不動産の共有状態は、相続のときに生じやすくなります。なぜかと言えば、民法が共同相続を原則としているからです。また、この後で説明する⑥「離婚」でも、夫婦間の共有状態が多く見られます。

老人ホームが「終の棲家」になるため、自宅を売る

理由④ 終活:生前に自宅を引き払いたい高齢者

 

年々増えてきている相談として特筆すべきは「老人ホームに入るのに自宅を引き払いたい」とか「死後に面倒事を残したくないので、今のうちに不動産を整理しておきたい」といった〝終活〟に絡む相談です。

 

老人ホームは入院とは違って、余生をそこで過ごすために入ります。つまり、老人ホームこそが、これからの自宅であり、終の棲家となるのです。家の所有者が独居の場合は、自宅は空き家になってしまうため、引き払ってから老人ホームに入居するのが、最もスマートな終活となります。

 

また、老人ホームによっては、入居時にまとまった額の契約金が必要なところもありますので、その費用を自宅の売却によって用意するケースもあります。今は一人暮らしの高齢者が増えましたから、今後もこうした終活のための自宅売却は増えていくものと予想できます。

 

あるいは、地方に住む高齢者の夫婦が、老後を利便性の高い場所で暮らしたいと考え、所有していた戸建ての住宅を売って、都内の駅近くの住居用マンションに買換えたケースもありますし、それとは反対に東京で所有している戸建てを売り、地方に帰って静かに暮らすというケースもありました。

 

また、終活関連で近年増えているのが、後見人や保佐人などの代理人による不動産の売却相談です。本人が認知症や知的障害などで、判断能力を欠いていたり、著しく不十分だったりする場合、本人に代わって資産の管理を行う後見人や保佐人がいます。

 

例えば、代理権を付与された保佐人から本人(高齢の女性)の介護費用が足りないので、本人所有の賃貸アパートを売却したいとの相談を受けたこともあります。やや広めの自宅敷地があって、自宅の横に古いアパートが建っていたのですが、息子がアパートを勝手に民泊に使って小遣い稼ぎをしていたことが判明しました。このケースでは強制執行で息子を排除してアパートは無事売却できたのですが、かれこれ3年くらいかかりました。

 

これは決して特殊な事例ではなく、別件で同じような相談を受けたことから、一つの典型的なパターンだと思われます。超高齢化が進む日本では、後見人や保佐人による売却相談がこれから急速に増えていくことでしょう。

業績不振、後継者不足…店舗や工場の売却は続くか

理由⑤ 業績不振・後継者不在:事業所の清算

 

業績不振による事業所清算の相談もあります。この場合、まず多いのが、債権者である銀行から、債務者の業績不振を理由として、抵当権をつけている債務者の不動産をなるべく高く売ってあげてほしいと紹介されて不動産の売却の仲介をするケースです。債務者が借金を全額返せない場合、本来なら裁判所の競売手続で、抵当に入れた不動産は売却されます。

 

ただ、このような競売手続によらないで、宅建業者が仲介して買手を見つけ、抵当権をつけている銀行等と交渉して、全額弁済でなくても抵当権の解除をしてもらって行う売買である「任意売却」を選択することも可能です。任意売却は、競売より不動産を高くスピーディーに売却でき、売主も競売では難しい引越費用を出してもらえることもあります。

 

そこで、銀行等も競売よりも任意売却できるものはなるべく任意売却で進めることを望みます。

 

また、債務者から債務整理の依頼を受けた弁護士からの紹介もあります。お金を銀行等から借りている債務者が借入金の全額を銀行に返済できない場合、債務整理の交渉を弁護士に依頼することがあるためです。この場合も、宅建業者が弁護士から依頼を受けて任意売却による不動産の売却の仲介を行います。

 

他に、破産管財人からの依頼もあります。お金を銀行等から借りている債務者が、債務超過のため自分の財産で支払不能となった場合、裁判所で破産宣告を受け破産管財人によって破産者の不動産を売却し、その代金を各債権者に分配します。そこで、破産管財人からの依頼で宅建業者が任意売却の仲介を行います。

 

次に、後継者不在のため事業所を清算したいという相談があります。後継者不在が主な要因となって「会社を閉じるために事業所を売りたい」という申し出です。ちなみに日本の企業の99.7%は中小企業ですが、順風満帆の企業は少数で、大半は経営不振や後継者不在などの不安や問題を抱えています。

 

ニーズの多様化や時代の急変化に適応できない、もしくは必要とされなくなることで業績不振に陥ることもありますし、少子高齢化や後継者となるべき子が安定を求めて大手企業に就職することなどを原因とした後継者不在企業が増えているからです。経済産業省によれば、今後、中小企業全体の約3割にあたる127万社で後継者が不在の状態となる見通しです。

 

特に、家族経営の小規模事業者の清算が目立っているのは、資金力や営業力などの点で弱く、経済競争の中で淘汰されやすいことや、大企業が下請けの切り捨てを考えたときに対象になりやすいこと、限られた人員の中で後継者が見つかりにくいことなどの理由が考えられます。

 

結果として、清算を選ぶ中小企業が増加しているのです。清算によって使用されなくなった店舗や工場などの不動産が売却対象となるのです。中小企業の生き残りは今後も厳しさを増すはずで、清算せざるを得ない企業は減らないでしょう。

熟年離婚の増加…共有名義の不動産を売却

理由⑥ 離婚:夫婦の共有名義で購入した不動産の売却

 

最後は、離婚にまつわる不動産の売却です。離婚後、夫が自分名義のマイホームを売却して妻への慰謝料や子の養育費に充てるとか、夫婦共有名義の自宅を売却して金銭で清算するといったケースがあります。

 

厚生労働省の統計(人口動態統計)によれば、特に熟年離婚が増えているといった傾向が読み取れます。どのようなことが離婚の原因となったかによって、慰謝料や子どもがいる場合には養育費が発生するという問題もありますが、基本的に離婚時には現在所有している財産についての分与は公平に行われることになります。

 

共有名義の不動産の場合には夫婦どちらかがそのまま住むとしたら、住むほうは住まないほうに、相手方の持分の代わりとなる何かを提供しなければなりません。例えば金銭などを渡すということになります。金銭がなければ売却して現金化して分割すればよいでしょう。自宅にローンが残っている場合は、売却代金でローンの残債務を支払って、余りを分配することになります。

買いたたかれる理由は「買取業者の論理」にあった

さて、主に前述してきたような6つの理由や動機から「不動産を売ろう」となったとき、多くの人が考えるのは「できるだけ高く売りたい」ということでしょう。急いでいる人は「早く売りたい」という気持ちも働きます。

 

実際のところ、昔から不動産を売りたい人は一定数いましたが、近年は特に上昇傾向にあるようです。不動産流通推進センターの調査によると、平成30 年度に新規で売りに出された物件数は全国総数で約189万件となっています。平成22年度の約121万件から右肩上がりに上昇を続け、この8年間で約68万件も増えたということです。

 

ところが、不動産を自分の思い通りの値段や予想以上の値段で売れる人は、ごく一部のラッキーな人に限られます。自身に不動産売却の経験がなければ、周りで不動産を売った経験のある人に聞いてみれば分かると思いますが、おそらくほとんどの人が「思っていたより安かった」とか「あれが適正価格だったのか分からない」と答えるでしょう。なかには「完全に買い叩かれた」という人もいるかもしれません。

 

どうしてそういう憂き目に遭ってしまうかというと、そこには素人の目には見えにくい〝買取業者の論理〟があります。例えば、不動産のような大きな売買でなくても、ブランド品などの買取額をめぐっての客と店主との攻防は、だいたい次のようなものです。

 

店主が物品を査定して出した金額を伝えると、客は納得のいかない様子で「もう少し高くならない?」「買ったときはもっと高かったのよ。いい商品なのは間違いないんだから」「あと1万円くらいオマケしてよ」などと要望します。すると、店主は「これが精一杯なんですよ」「先月までは買取セールをやっていて、もう少し色を付けられたのですが」などと答えます。

 

高く買ってほしい客と、安く買いたい店主との一騎打ちです。こういうリアルなやり取りは単に傍観者として見ている分には面白いのですが、当事者同士は必死です。しかし、最終的には、店主が提示した〝これ以上は高くできない〟という価格で決着します。決着の仕方は、客が納得して売るか、納得いかずに交渉が流れるかの二つに一つです。

 

店主が「これ以上は出せない」と言い「嫌なら売ってくれなくてもかまわない」という態度で来られると、たいていの客は「仕方がない」と折れます。業者側はこれを商売にしている百戦錬磨のプロですから、初めての客が太刀打ちできるわけがありません。結局は、提示された金額をのむかのまないかしかないわけです。これが業者の論理です。

 

店主にとって客が持ってきた物品が魅力的で、ビジネス上どうしても手に入れたいものなら、高めの価格を提示してくれますが、そうでない場合はシビアな金額を提示してきます。たいていの場合、後者の部類に入ってしまうことが多いので、客は安くても売る羽目になってしまいがちです。このように、買取というのは基本的に〝業者優位〟の交渉で事が進んでしまうのです。

 

これは、不動産の買取でも同じです。不動産業者の先導で交渉が運んでしまうことが多いため、売手は安い価格でも目をつむって売ることになります。「買い叩かれた」などの残念なケースは、この業者の論理にまんまとはまってしまった結果と言えるかもしれません。

 

 

 

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