「もう戻ったほうがいい」娘が心配した夫婦の暮らし
ある日、俊明さんはスーパーの駐車場で車を降りた際、足を滑らせて転倒しました。幸い骨折はなく打撲で済みましたが、数日間は歩くのもつらかったそうです。
その間、夫婦は買い物に困ることになりました。
由紀子さんは運転に不安があり、徒歩で行ける商店には必要な食材がそろっていません。ネットスーパーの配達区域からも外れていました。
「娘に頼んで、食料品を届けてもらいました。たった数日、夫が車を出せなくなっただけで、こんなに困るとは思いませんでした」
車で約1時間半かけて訪れた40歳の娘は、冷蔵庫の中身や買い物の状況を確認し、夫婦に言いました。
「お父さんもお母さんも、まだ元気だと思う。でも、これから何かあったらどうするの? もう戻ったほうがいいんじゃない?」
娘は以前から、両親が車に頼る生活を心配していました。今回の転倒を機に、その不安が強くなったのです。
国土交通省『令和5年住生活総合調査』では、65歳以上の夫婦世帯が居住環境で最も重視する項目として、「日常の買物などの利便」が42%、「医療・福祉・介護施設の利便」が17%を占めています。高齢期の住まい選びでは、生活に必要な施設へのアクセスが重要な条件となっています。
また、総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、月平均の可処分所得が22万1,544円、消費支出が26万3,979円でした。平均では毎月約4万2,000円の不足が生じています。
俊明さん夫婦の場合、マンションの売却代金が残っているため、すぐに生活費が不足する状況ではありません。
それでも、今後の住まいについては考え直す必要があると感じました。
「お金があるから大丈夫だと思っていたんです。でも、車を運転できなくなったら、今の暮らしを続けるのは難しいかもしれません」
娘からは、以前住んでいた地域に戻り、駅やスーパーに近い賃貸マンションで暮らすことも提案されました。
ただ、俊明さんには、せっかく手に入れた庭付きの家をすぐに手放す決心がつきません。
夫婦はまず、食料品の宅配サービスやタクシーの利用方法を調べ、庭の手入れも一部を業者に依頼することにしました。そのうえで、車の運転が難しくなった場合には、駅や医療機関に近い場所へ再び住み替える方針を娘と共有しています。
「ここで暮らせる間は楽しみたいです。でも、次の住み替えが必要になるかもしれないことは、夫婦で考えておこうと思います」
高齢期の住み替えでは、理想の暮らしを実現することに加え、日常生活を支える交通手段や医療環境の確認も欠かせません。将来、運転や住宅管理が難しくなった場合の選択肢まで考えておくことが、安心して暮らし続けるための備えになるでしょう。
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