「明日から好きなだけ寝られる」退職祝いの夜に語った夫の夢
60歳の修一さん(仮名)は、大学卒業後から約38年間、会社員として働いてきました。定年を迎えた日は、職場の同僚から花束を贈られ、晴れやかな気持ちで帰宅したそうです。
自宅では、58歳の妻・由美子さん(仮名)が夕食を用意して待っていました。
「長い間、お疲れさま」
由美子さんの言葉に、修一さんは笑顔で応えます。
「俺もやっと自由だ。明日から目覚ましをかけなくていいんだな」
修一さんは再雇用を選ばず、しばらく働かずに過ごすつもりでした。住宅ローンは完済しており、退職金約1,900万円を含めた夫婦の金融資産は約3,500万円。修一さんの老齢年金は原則65歳からの受給となるため、それまでの生活費は貯蓄から賄う計画です。
由美子さんは週4日、近所の店舗でパート勤務を続けています。月収は約10万円。修一さんは、妻もいずれ仕事を辞め、2人で旅行や趣味を楽しめばよいと考えていました。
「来月あたり、温泉にでも行くか。これからは毎日が日曜日みたいなものだ」
しかし、由美子さんは「そうね」と短く答えただけでした。
修一さんは、退職祝いの準備で疲れているのだろうと思い、それ以上は気に留めませんでした。
翌朝、修一さんが目を覚ましたのは午前10時過ぎ。久しぶりに時間を気にせず眠れたことに満足しながら、寝室を出ました。
ところが、いつもなら台所にあるはずの朝食がありません。食卓には、妻の字で書かれた一枚の便箋が置かれていました。
「これからの生活について、あなたに考えてほしいことがあります。私は今日から、しばらく姉の家で過ごします」
修一さんは、その場に立ち尽くしました。便箋には、さらにこう続いていたのです。
「あなたは昨日、『やっと自由になれる』と言いましたね。私は、結婚してからずっと、自分の時間を自由に使える日を待っていました」
