「いずれ戻ってくるだろう」73歳夫婦が信じていた息子の将来
73歳の隆夫さん(仮名)は、同い年の妻・咲子さん(仮名)と2人暮らし。夫婦の年金収入は月約21万円で、住宅ローンを完済した一戸建てに住んでいます。
築40年近い自宅は、隆夫さんが会社員として働いていた頃に購入したものです。4LDKの家には庭もあり、以前は休日になると家族で花壇の手入れを楽しんでいました。
夫婦には45歳のひとり息子・直人さん(仮名)がいます。
直人さんは大学進学を機に実家を離れ、現在は妻と小学生の娘とともに、車で約2時間の場所にある賃貸マンションで暮らしています。
隆夫さんは、息子が結婚してからも、いずれ家族を連れて実家に戻り、自分たちと同居するものだと思っていました。
「この家なら部屋も余っているし、家賃もかからない。孫が大きくなっても十分暮らせるだろう」
帰省のたびにそう話していましたが、直人さんはいつも「そうだね」と曖昧に答えるだけでした。
数年前、隆夫さんは自宅の屋根の修繕に約120万円をかけました。老朽化した部分を直す必要があったものの、将来、息子一家が住むことも考え、家を長く使える状態にしておきたかったのです。
その後も庭木の剪定や設備の交換を続け、直人さんには「お前たちが帰ってきても困らないようにしている」と伝えていました。一方、直人さんは実家に戻る予定を具体的に話したことはありませんでした。
転機となったのは、隆夫さんが車の運転に不安を感じ始めたことです。
近所のスーパーまで車で15分。病院へ行くにも車が必要な地域で、今後の暮らしを考えると心配が増えていました。
ある日、隆夫さんは電話で息子に相談しました。
「あと何年かしたら、こっちに戻ってこられないか。家はそのまま使えばいいし、近くにいてくれると安心なんだが」
すると、直人さんはしばらく黙ったあと、静かに答えました。
「父さん、俺は期待には応えられないよ」
隆夫さんは、思いがけない言葉に戸惑いました。
