格安での売却はNG…適正な時価と「利益相反取引」の注意点
個人所有の車両を法人へ名義変更する際、最も留意すべき基本ルールは「適正な時価」で取引を実行することです。自分の所有会社だからという理由で、100円といった不自然な低額で譲渡を行ったり、無償で贈与を行ったりすることは税務上認められません。
時価よりも極端に安い価格で売買した場合、法人側は時価との差額分だけ経済的利益を無償で受け取ったと判定され、その差額に対して「受贈益」として法人税が課税されます。たとえば、時価100万円の車両を10万円で法人へ売却した場合、差額である90万円が受贈益とみなされ、意図しない課税負担が発生します。
税務署に対して取引価格の正当性を証明するためには、客観的な証拠を保存することが不可欠です。複数の中古車買取業者に査定を依頼し、提示された査定額の平均値を採用することで、第三者間取引と同水準の適正な時価である旨を論理的に説明できます。なお、プレミアム価格がつく高級外車を個人から法人へ売却し、取得時の価格を上回る利益が出た場合は、経営者個人に譲渡所得税が課される場合が存在します。
また、社長個人と自社との売買取引は、会社法上の「利益相反取引」に該当します。手続きの不備を防ぐため、株主総会や取締役会において承認を得ておき、その決議内容を記載した議事録を法的な証拠として保存しておく義務が生じます。
なお、名義変更にあたっては個人で加入していた任意保険の割引区分の取り扱いに注意が必要です。保険会社によっては個人の割引区分を法人へ引き継げずリセットされる場合があり、保険料の高騰によって節税効果が相殺されるリスクが生じます。そのため、事前に契約中の保険会社へ確認しておきましょう。
税務調査で否認されない「車両使用料規定」の作り方
車両を無事に法人名義へ変更したあとの運用において、税務調査での指摘を防ぐために重要なポイントが「事業利用の実態の立証」です。
法人の所有車両は、原則として「事業用途で利用すること」が前提となります。実務上、業務利用が主体であり、一部でプライベート利用が含まれる程度であれば問題視されない傾向にありますが、完全にプライベートのみで使用していると判断された場合は経費化が否認されます。
税務調査において指摘を受けるリスクを徹底的に排除するためには、会社と経営者個人との間で「車両使用料規定」をあらかじめ作成しておく運用が推奨されます。
毎月発生する減価償却費と維持費の合計額(仮に月額20万円)を算出し、走行距離や利用日数から算出されるプライベート利用割合(仮に10%)を乗じた金額(月額2万円)を、経営者個人から法人へ使用料として毎月支払うといった仕組みを構築しましょう。
このようにプライベート利用分を個人から法人へ適切に還元している実態を作っておくことで、税務署からの確認に対しても客観的な根拠をもって業務利用と私的利用の区分を説明することが可能となります。
