本業の黒字を圧縮…“キャッシュアウトを伴わない”会計上の赤字
十分な手元資金を持ちながら、“あえて借金”をして不動産を購入する経営者は、単に資産を増やしているわけではありません。
最大の目的は、本業の黒字を打ち消して法人税を圧縮する「会計上の赤字」を作り出すことにあります。
不動産を法人名義で購入して賃貸事業を行うと、家賃収入や更新料が収益として入る一方、固定資産税、不動産取得税、管理費、ローンの金利、不動産経営に関わる交通費、飲食費、そして「減価償却費」を会社の経費として計上できます。
減価償却費は、10万円以上の長期にわたって使用する資産について、購入した年に全額を経費にするのではなく、法定耐用年数に分けて少しずつ費用化していく税務上の仕組みです。不動産の場合、経年変化で価値が減少しない土地部分には適用されず、建物部分のみに減価償却が行われます。
減価償却費の最大の特徴は、実際の現金の流出(キャッシュアウト)を一切伴わずに、帳簿上の経費だけを計上できる点にあります。
手元には毎月の家賃収入がキャッシュとして蓄積されていく一方、帳簿上は多額の減価償却費を発生させられるため、実際には資金が増えているにもかかわらず「会計上の赤字」を作り出すことができます。
この不動産事業における帳簿上の赤字を本業の利益とぶつけることで、法人全体の所得を大きく減らし、支払うべき法人税を抑えることが可能になります。
新築よりも中古…経費を数年間に集中させて税金を先送りに
この会計上の赤字による節税効果は、購入する建物の構造や築年数によって変化します。
新築物件の場合、法律で定められた法定耐用年数が長く設定されています。木造であれば22年、鉄筋コンクリート(RC)造であれば47年です。期間が長いということは、1年あたりに経費化できる減価償却費の額が少額に留まり、単年度の節税効果は小さくなります。
一方で、すでに法定耐用年数を経過している「中古物件」を法人名義で購入した場合、この償却期間を大幅に短縮できます。法定耐用年数を超えた中古物件の償却期間は、木造物件であれば「4年」、RC造物件であっても「9年」にまで短縮されます。
償却期間が短いということは、数年間という短期間に毎年何百万円、あるいは1,000万円を超える多額の減価償却費を集中して計上できることを意味します。これにより、本業で発生した大きな利益を強力に相殺し、法人税を大幅に引き下げる効果が得られます。
ただし、この手法は税金を消滅させるものではなく、あくまで「利益の繰り延べ(税金の先送り)」であるという注意点があります。
減価償却が進むと、帳簿上の建物の価値(簿価)は最終的に1円まで減少します。しかし、実際の物件の資産価値は好立地の建物であれば十分に維持されています。
そのため、数年後に償却が終わった物件を売却した際、売却額のほぼ全額が法人の譲渡益(利益)となり、その期に大きな課税が課されます。
この支払いを回避するためには、物件の売却タイミングに合わせ、大きな経費が発生する予定を組んでおく「出口戦略」が不可欠です。大規模な建物の修繕、新規事業への投資、あるいは「経営者の退職金」の支給といった、まとまった損金が発生するイベントを売却の期にぶつけることで、譲渡益を相殺し、初めて完全な節税が達成されます。
