「今行かなかったら、一生行けない」半年間の海外生活
「お母さんのお金で、ずっとやりたかったことをやってみようと思う」
65歳だった恵子さん(仮名)が長女にそう話したのは、母親を亡くして半年ほど経ったころでした。
恵子さんは10年前に離婚し、一人暮らし。長年勤めた会社を60歳で退職した後は再雇用で働き、65歳で仕事を終えました。
母親から相続した預貯金は約900万円。
もともと恵子さん自身にも約1,600万円の金融資産があり、住宅ローンを完済したマンションもあります。65歳から受け取る年金は月約14万円でした。
そんな恵子さんには、若いころから一つ夢がありました。時間を気にせず、海外を長く旅することです。
会社員時代の海外旅行は長くても1週間程度。退職後に行こうと考えていたものの、母親の介護が必要になり、遠出を控える生活が数年続いていました。
「母が亡くなった直後だから、旅行なんてどうなんだろうとも思った。でも、私ももう65歳。70歳になったとき、今と同じように動ける保証はないと思ったんです」
長女からは、「全部使わないなら、行ってきたら」と背中を押されました。
恵子さんが計画したのは約半年間の海外生活です。
ヨーロッパを中心に複数の国を巡り、途中では1ヵ月単位でアパートメントを借りました。高級ホテルを転々とする旅ではありません。
それでも航空券や宿泊費、鉄道代、食費などを合わせると、出発前に考えていたより支出は増えていきます。
「せっかくここまで来たんだから」
そう考えて予定になかった都市へ足を延ばし、現地ツアーにも参加。帰国するころには、相続した900万円のうち約500万円を使っていました。
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』では、60歳以上が今後優先的にお金を使いたいものとして「趣味やレジャー(旅行等)」を挙げた割合は32.4%です。一方、「自分や配偶者の医療・介護の費用」は47.5%に上りました。高齢期には、現在の楽しみと将来への備えの両方が家計に関わってきます。
恵子さん自身、500万円を使ったことを帰国直後は後悔していませんでした。
「行ってよかった。これでずっと行きたかった場所に行けた」
そう長女にも話していました。
