1,000万円以下の古民家を購入…退職後、念願の田舎暮らし
「もう満員電車にも人混みにも疲れた。退職したら、静かなところで暮らしたい」
そう話していたのは、会社員だった隆さん(65歳・仮名)です。妻の由美子さん(63歳・仮名)と暮らしていたのは、首都圏の駅に近いマンション。子ども2人はすでに独立しています。
隆さんが60代になってから、夫婦は退職後の住まいについて話すようになりました。きっかけは旅行で訪れた地方の町です。
縁側のある古い家、庭の向こうに見える山。由美子さんも「朝の電車の音がしないところで暮らすのもいいね」と気に入りました。
隆さんが退職した際に受け取った退職金は約2,200万円。それまでの貯蓄もあり、夫婦は都市部のマンションを売却。地方都市から車で30分ほどの地域にある築約70年の古民家を購入しました。
購入価格は1,000万円に届きません。
ただし、そのまま住める状態ではなかったため、水回りや一部の床などを改修。入居前のリフォームには数百万円をかけました。
「これだけ直せば、しばらく大きなお金はかからないだろう」
隆さんはそう考えていたといいます。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』では、住まいや地域の環境で重視する点として、「豊かな自然に囲まれていること、または静かであること」を挙げた65歳以上は30.9%でした。一方、「医療や介護サービスなどが受けやすいこと」は61.4%に上ります。
夫婦も病院やスーパーまでの距離を調べ、車があれば生活できると判断していました。
引っ越した直後は、期待していた通りの毎日でした。朝は縁側でコーヒーを飲み、近くの直売所へ出かける。週末も平日も関係ありません。
由美子さんは、「これからは温泉に行ったり、平日に旅行したりしよう」と楽しみにしていました。
ところが、暮らし始めて数ヵ月すると、隆さんが家のあちこちを気にするようになります。
梅雨には湿気がこもり、一部の建具が動きにくくなりました。夏には庭の草が一気に伸びます。雨のあとには雨どいから水があふれていることにも気づきました。
「業者を呼ぶほどじゃないよ。これくらいなら自分でできる」
隆さんはホームセンターで道具をそろえ、少しずつ手を入れるようになりました。草を刈り、障子を張り替え、雨どいを掃除する。一つ終わると、別の場所が目につきます。
いつしか隆さんの予定表には、「庭」「物置」「雨どい」「冬支度」と、家に関する用事が並ぶようになっていました。
