司法取引ならぬ「税務取引」?
トランプ氏は、1987年に出版した著書『The Art of the Deal』で、自身のビジネスにおける交渉術を世に知らしめました。
今回の一連の動きを見ると、巨額の損害賠償を求める訴訟を起こし、それを司法省との和解によって終結させる。その過程で、自らや家族、事業にとって有利な条件を引き出す――という構図に見える部分があります。
もちろん、税務調査条項の最終的な範囲が確定していない以上、「トランプ氏が税務調査免責を手に入れた」と現時点で断定することはできません。
しかし、もし最終的にトランプ氏本人とその息子たち、さらにトランプ氏の事業について、過去の確定申告に対する税務調査が広範囲に制限されることになれば、米国の税制と司法制度に対する国民の信頼を大きく揺るがすことになりかねません。
問題の本質は、トランプ氏個人の利益だけではありません。「誰であっても同じ税法が適用されるのか」という、税制の根幹に関わる問題です。
現職大統領とその家族、事業が、訴訟の和解を通じて過去の税務調査を制限できるのであれば、それは一般の納税者との間に大きな格差を生むことになります。
さらに、その和解に関与した大統領の元私的弁護士が司法長官に就任した以上、司法と大統領個人との関係についても、厳しい検証が必要になります。
日本では、ここまで一人の政治家とその一族の資産・事業、司法、税務行政が密接に絡み合うケースは想像しにくいかもしれません。
しかし、だからこそ今回の問題は、単なる「トランプ政権の特殊な事情」として片付けることはできません。
税務行政は、納税者の立場や政治的影響力に左右されることなく運営されなければなりません。
トランプ氏とその一族に対する税務調査をめぐる今回の和解案は、まさにその原則が守られるのかを問う問題です。
最終的な合意文書がどのような内容になるのか。そして、トランプ氏とその家族、事業に対する税務調査の扱いがどうなるのか。米国の納税者だけでなく、世界の税務関係者からも、その行方が注目されています。
奥村 眞吾
税理士法人奥村会計事務所
代表
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