退職祝いの少しの贅沢…初めて経験した「ファーストクラス」
東京都郊外に暮らす田中正彦さん(仮名/65歳)は、妻の恵子さん(仮名/64歳)と2人暮らし。正彦さんは新卒から公務員として勤務を続けてきましたが65歳で退職しました。子どもたちはすでに独立し、住宅ローンも完済しています。
正彦さんの年金と、恵子さんが65歳から受け取る予定の年金を合わせると、夫婦で月28万円ほどになる見込みです。2人は決して派手な暮らしをしてきたわけではなく、現役時代は無駄遣いを控え、将来のためにコツコツと貯蓄を続け、住宅ローン完済後の資産は、退職金を含め3,000万円を超えています。
退職前にはファイナンシャルプランナーに相談し、老後の資金計画を立てる堅実ぶり。当時の支出状況で試算すると、当面の生活費などに備えた預金を1,000万円以上確保し、残る2,000万円は資産運用に回すことに。想定した生活費と運用条件に基づく試算では、資産寿命にも一定の余裕があるという結果でした。
そんな2人には、以前から楽しみにしていた夢がありました。
「退職したら、全国の温泉を巡ってみたいね」
現役時代はまとまった休みを取りにくく、旅行に行けても年に一度か二度。それも、できるだけ交通費を抑えた旅ばかりでした。ようやく時間に余裕ができた2人は退職後、最初の旅行先に北海道を選びました。
航空券を探していた正彦さんは、ある便の国内線ファーストクラスが、セールで1人片道3万円ほどになっているのを見つけます。普段なら普通席を選ぶところですが、今回は退職祝いを兼ねた旅行です。
「行きだけでも、2人でちょっと贅沢してみるか」。恵子さんも笑顔で賛成しました。
こうして2人は、初めてファーストクラスに乗ることに。
旅行当日、空港に到着した2人は、まずチェックインの段階から驚かされました。専用カウンターで荷物を預け、一般のカウンターに並ぶことなく手続きを済ませられます。保安検査を終えると、案内に従って専用ラウンジへ。落ち着いた空間には軽食や飲み物が用意され、お酒も楽しめます。正彦さんは、普段はなかなか手が出ないウイスキーをグラスに注ぎました。
「飛行機に乗る前からこんなに楽しめるとはなあ」
恵子さんも、窓の外に並ぶ飛行機を眺めながら、ゆったりとした時間を過ごしていました。
搭乗時には優先的に案内され、機内に入ると客室乗務員が名前を呼んで迎えてくれました。座席は広々としており、少しなにかを探すような素振りを見せるだけで、客室乗務員が声をかけてくれます。機内食には有名レストランが監修した料理が並び、お酒も楽しめました。
「まるで空の上の高級レストランだな」正彦さんは、思わず笑みを浮かべます。
これまでにも何度か飛行機には乗ってきましたが、同じ目的地へ向かう移動でも、これほど体験が違うとは思っていませんでした。
北海道では、温泉宿に2泊3日で滞在。地元の料理を味わい、露天風呂から景色を眺め、2人でゆっくりとした時間を過ごしました。
しかし、この旅行が、2人の老後生活を思わぬ方向へ変えるきっかけとなったのです。