ロシアから欧州へ、そして欧州からロシアへ――。かつてキプロスは、ロシア企業や富裕層にとって、資金や投資を海外へ動かすための「窓」のような役割を果たしていました。低い法人税率や国際金融センターとしての機能を背景に、ロシア資本の重要な金融・投資拠点となっていたのです。しかし、2022年のウクライナ侵攻を境に、その関係は大きく変わりました。EU加盟国であるキプロスは、EUの対ロシア制裁を実施する側に立っています。それでも、過去に形成されたロシアとの金融・投資上の結び付きは、簡単には消えません。かつて「ロシアと欧州をつないだ窓」キプロスは、現在どのような役割を担っているのでしょうか。
2013年の金融危機で注目されたロシア資金
キプロスとロシアの金融関係を象徴する出来事が、2013年の金融危機です。
当時のキプロスでは、銀行部門が国内経済に比べて大きく膨張していました。さらに、ギリシャ危機などの影響を受け、銀行システムが深刻な危機に陥ります。
キプロスは金融システムを立て直すため、EUなどから金融支援を受けることになりました。
その際、支援の条件として預金者にも負担を求める案が浮上しました。当初の案では、10万ユーロ以下の預金に6.75%、10万ユーロを超える預金には9.9%の課税を行うことが提案されました。
この案が公表されると、預金者が銀行から資金を引き出そうとATMなどに殺到し、取り付け騒ぎへの懸念も広がりました。
ただし、ここで注意が必要です。この6.75%と9.9%の預金課税案は、そのまま実施されたわけではありません。キプロス議会がこの案を否決したためです。
その後、10万ユーロ以下の預金を保護する一方、大口預金者などに負担を求める銀行再編・ベイルインが行われました。
当時、キプロスの銀行にはロシアからの預金が多く存在していました。キプロスへの金融支援をめぐっては、「ロシアの富裕層が多額の資金を預けている銀行を、欧州の納税者が救済することになるのではないか」という問題も議論されました。
この金融危機は、キプロスとロシア資本との結び付きが、単なる貿易関係ではなく、金融・投資の面で深いものであったことを象徴する出来事となったのです。
国際課税研究所首席研究員 博士(会計学)。
中央大学大学院商学研究科修士課程修了。昭和50年東京国税局に勤務、平成2年退職。産能短期大学助教授、日本大学商学部助教授、教授を経て平成14年中央大学商学部教授(平成30年退職)。税務大学校講師、専修大学商学研究科非常勤講師、慶應義塾大学法学研究科非常勤講師、新潟産業大学経済学部非常勤講師、武蔵大学経済学部非常勤講師を歴任。
著書に『国際課税と租税条約』(ぎょうせい、第1回租税資料館賞受賞)、『租税条約の論点』(中央経済社、第26回日本公認会計士協会学術賞)、『移転価格税制の理論』(中央経済社) 、『詳解日米租税条約』(中央経済社)など。
最新刊はこちら↓
『食料品消費税1% 減税×給付付き税額控除の真実』
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載ゴールドオンライン新書編集部発_注目の執筆者の書下ろし!