90代・子どものいないAさんを支えていた姪夫婦
相談者のAさん(90代女性・仮名)は、生涯独身で、子どもはいません。
長年、都内の分譲マンションで一人暮らしをしていましたが、高齢になり、介護や健康面に不安を感じるようになったことから、マンションを売却して老人ホームへ入居しました。現在も日常生活は自立しており、判断能力も十分に保たれています。
Aさんには、姉、妹、弟の3人のきょうだいがいます。しかし、いずれも80代後半から90代と高齢です。弟は結婚していますが子どもはおらず、姉と妹も年齢を重ね、きょうだい同士で支え合うことが難しくなっていました。
そうしたなかで、Aさんの生活を実質的に支えていたのが、姉の娘にあたる姪とその夫でした。
姪夫婦は、老人ホームへの入居手続きや病院への付き添い、各種手続きのサポートを担い、日常の相談にも応じるなど、長年にわたってAさんを親身に支えてきました。
Aさんも、「私がここまで安心して暮らせるのは、姪夫婦のおかげ」と、深く感謝していました。
一方で、Aさんは「自分が亡くなったあと、財産はどうなるのだろう」という不安も抱えていました。
遺言書がなければ、法定相続人となるのは姉、妹、弟です。しかし、全員が高齢であり、相続が発生した時点で誰が存命かは分かりません。
また、実際に自分を支えてくれている姪夫婦やその家族に、財産という形で感謝の気持ちを残したいという強い希望もありました。
そこでAさんは、判断能力が十分にあるうちに遺言書を作成し、自分の意思を明確にしておきたいと考え、姪夫婦とともに相談に来られました。
約3億円の資産の大半を上場株式で保有
Aさんの財産は約3億円で、そのほぼすべてを金融資産が占めています。なかでも大部分が上場株式で、90代となった現在もAさん自身が取引を続けていました。
主な資産は、次のとおりです。
・上場株式:約2億5,000万円
・預貯金:約5,000万円
不動産はありません。以前所有していた都内のマンションはすでに売却しており、現在は老人ホームで暮らしています。
特筆すべきは、Aさんが相場情報を確認し、自ら売買を判断できるほど頭脳明晰で、資産管理能力も十分に保たれていたことです。
一方でAさんは、「自分が亡くなった時に多額の株式が残っていたら、相続人が管理や売却に困るのではないか」と懸念していました。
高齢のきょうだいへの相続と、多額の株式の承継が課題に
今回の相続対策では、大きく4つの課題を整理する必要がありました。
課題1 高齢のきょうだいがAさんより先に亡くなる可能性がある
法定相続人となる姉、妹、弟は、いずれも80代後半から90代です。そのため、遺言書を作成してから相続が発生するまでの間に、きょうだいの誰かがAさんより先に亡くなる可能性がありました。
遺言書にその場合の定めがなければ、予定していた財産の承継先が不明確になる恐れがあります。また、相続関係によっては代襲相続が発生し、相続人が増えて関係が複雑になる可能性もあります。
高齢者同士の相続であるからこそ、現在の家族構成だけでなく、将来起こり得る変化まで見据えておく必要がありました。
課題2 Aさんを支える姪夫婦は法定相続人ではない
Aさんの日常生活を実質的に支えているのは、姪夫婦です。
しかし、姪は、Aさんの姉が存命である限り法定相続人にはならず、姪の夫も法定相続人ではありません。
そのため、何も対策をしなければ、Aさんが姪夫婦に抱いている感謝の気持ちを、財産という形で残すことはできませんでした。
課題3 約2億5,000万円の上場株式をどのように分けるか
Aさんの財産の大半は、約2億5,000万円にのぼる上場株式です。
株式は相続時の相場によって評価額が変動するうえ、複数人に銘柄や株数を分けて承継させると、公平な分配が難しくなる場合があります。
さらに、相続人がそれぞれ証券会社で名義変更や売却の手続きを行うことになれば、管理や処分の負担も大きくなります。
多額の株式を、できるだけ公平かつ円滑に分配できる方法を検討する必要がありました。
課題4 高齢の相続人に複雑な手続きの負担をかけたくない
相続人となるきょうだいも高齢であるため、相続発生後の手続きに伴う負担をできるだけ減らす必要がありました。
特に、金融機関や証券会社での名義変更、株式の売却、費用の支払い、財産の分配といった手続きは煩雑です。
誰が中心となって実務を進めるのかをあらかじめ明確にし、相続手続きを一元的に進められる体制を整えておくことが求められました。
