老後に必要なのは「前提が崩れたあと」の設計
現実には、これから介護を支える人手そのものが不足していくと見込まれるなか、自費でケアサービスを手配できる人はさらに限られていくでしょう。その意味で、Aさんの選択は誰もが真似できるものではありません。一方で、「判断能力が低下したあとに、自分の意思をどう反映させるか」というお金だけでは解決できない課題は、資産の多寡に関係なく、誰にでも当てはまります。
まず確認したいのは、自分たちの老後計画が、なにを前提に成り立っているかです。「自分が倒れたら好きにしてほしい」という人は少なくないですが、医療や介護、財産管理では、本人の同意や契約、各種の手続きを求められる場面が少なくありません。制度やサービス利用を前提とするなら誰がその対応を担えるのか、事前に確認しておく必要があります。
本人の意思がわからない状態だと、対応の担い手が直面するさまざまな選択は、一気に重いものとなります。だからこそ、そういった担い手の負担を少しでも減らすためにも、元気なうちに、自分がどのような暮らしを望むのかを考え、周囲に伝えておくことは大切です。
「誰がなにを担うのか」「その人が対応できなくなったらどうするのか」「どの状態になったら見直すのか」先々のことを見通すことは難しいですし、想定外をなくすことはできません。それでも、事前に考えておくことで避けられる混乱や、軽くできる負担はあるはずです。
頼る人や制度、住まいの前提が崩れたときにも、自分にとって望ましい暮らしを立て直す道筋をつくっておくこと。老後も安心して暮らし続けるために必要なのは、資産の額だけでなく、こうしたリスクマネジメントの視点なのかもしれません。
〈参考〉
※1 厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」
https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf
※2 九州大学「令和5年度老人保健事業推進費等補助金 」
https://www.eph.med.kyushu-u.ac.jp/jpsc/uploads/resmaterials/0000000111.pdf
※3 三井住友信託銀行 調査月報 2022年5月号 経済の動き ~ 膨らむ認知症高齢者の保有資産
https://www.smtb.jp/-/media/tb/personal/useful/report-economy/pdf/121_1.pdf
※4 高齢者の資産をめぐる2つの問題(財務総合政策研究所)
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f10_51.pdf
内田 英子
FPオフィスツクル 代表
ファイナンシャルプランナー
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