基本手当の受給はできません…担当者のひと言にあ然
その後、失業給付の手続きを進めるため、離職票を持ってハローワークを訪れたAさん。職員から現在の就労状況を聞かれ、Aさんは正直に答えました。
「本業は退職してしまったんですが、副業でシステム開発をしています。売上は月20万~30万円くらいかな。2年前に法人化して、私が代表取締役です」
その瞬間、職員の表情が変わりました。
「なるほど。代表取締役に就任されている場合、原則として基本手当の受給はできません」
Aさんは耳を疑いました。
「え? でも、本業は辞めましたし、副業はあくまで副業です。会社員として再就職する意思もあります」
そう説明しても、職員の回答は変わりませんでした。
「個人事業主であれば、就労時間や収入、求職活動の状況を確認したうえで判断できる場合があります。しかし、代表取締役として法人の登記がある場合は、扱いが異なります」
Aさんにとっては、納得しがたい説明でした。Aさんの感覚としては、法人化は単なる取引上の都合です。社員を雇っているわけでもなく、事務所を借りているわけでもありません。やっていることは、個人事業主時代となんら変わりません。
雇用保険の実務で重くみられる「副業」の扱い
しかし、雇用保険の実務では、「本人が会社の代表取締役である」という事実は重くみられます。
「失業等給付」は、会社を辞めた人すべてに支給される制度ではありません。「就職したい」という積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があり、求職活動をしているにもかかわらず、職に就けない状態にある人を支援するものです。
そのため、すでに自分の会社の代表者として事業を行っている場合、「失業している」といえるのかが問題になります。
特にAさんのように、代表取締役として登記され、実際に月20万~30万円の売上があり、月40~60時間程度の開発業務を続けている場合、雇用保険上の“失業”には該当しないと判断されます。
「失業手当をもらいながら、副業も続ける」
Aさんにとっては合理的なプランを立てたつもりが、「制度の壁」により、Aさんはその計画を見直しを余儀なくされました。
個人事業主のままなら、結論は違った可能性
Aさんが特にショックを受けたのは、職員からこう説明されたことでした。
「個人事業主のままであれば、受給できる可能性があったかもしれません」
もちろん、個人事業主であれば必ず基本手当を受けられる、という意味ではありません。自営業に専念していて、ハローワークからの職業紹介に応じられない状態であれば、やはり失業状態とは認められません。
ただし、個人事業主の場合は、実際の就労時間や収入、求職活動の意思、週20時間以上の就職に応じられるかなど、実態を踏まえて判断される余地があります。
Aさんの副業は月40~60時間で、単純に週換算すれば10~15時間程度です。案件の納期によって波はあるものの、日中は転職活動に使える日もあります。そのため、個人事業主のままであれば、「副業として一定の就労・収入申告をしながら、それ以外の日について基本手当の対象となるか」を検討できた可能性があります。
この点、Aさんのように法人を設立し、代表取締役になってしまうと、これは単に「副業をしている人」とは違う扱いになりやすい立場です。
法人化には、信用力の向上や取引先対応・会計処理のしやすさといったメリットがあります。しかし、会社員が副業を法人化する際、退職後の雇用保険との関係まで含めて考える必要があります。

