母のために準備した新生活だったが…
洋輔さんは、母のために自宅を改修しました。手すりを設置し、段差を減らし、寝室も母が使いやすいよう整え、準備万端。妻も「お義母さんが好きな食事を用意する」と協力的でした。
早紀さん自身も、当初は新しい生活を受け入れているように見えました。しかし、早紀さんの元気は、徐々になくなっていきました。
会話が続かず、テレビをぼんやり眺める時間が増えました。散歩もせず部屋に閉じこもり気味に。地域の高齢者サロンやデイサービスも勧めましたが、「知らない人ばかりだから。それに、私は訛りがあるでしょう」 と気が進まない様子です。
ある日の夕食後、早紀さんがぽつりと言いました。
「一人でも、あの家で暮らしていたかった。それが一番よかった。ここには、お父さんと暮らした思い出がない。ご先祖様がいるお墓も遠い。戻りたい……」
洋輔さんは言葉を失いました。母を危険から守るために呼び寄せた。それは、親孝行のつもりでした。家を改修し、妻にも負担をかけている。それでも母は幸せではないと言います。そして、実家は売却し、戻してあげたくても、その場所はもうないのです。
「しばらく実家を残しておくんだった。実際戻るかどうかは別にして、選択肢もない状況は、母がかわいそうで。すぐに売ってしまったことを、本当に後悔しました」

