「払えなくなるとは」…家賃滞納で崩れた“裕福だった頃”の感覚
家賃の支払いが遅れ始めたのは、冬のことでした。光子さんの通院が増え、検査費用や薬代がかさんだ月でした。さらに電気代も上がり、家計は一気に苦しくなります。
正一さんは、管理会社からの電話にこう答えました。
「来月には払います」
しかし翌月も、状況は変わりませんでした。
家賃は生活費の中で最も大きな支出です。一度遅れると、次の月の支払いも重なり、立て直しが難しくなります。
「まさか自分たちが家賃を滞納するなんて、思ってもいませんでした」
光子さんはそう話します。
厚生労働省『2023(令和5)年 国民生活基礎調査』では、高齢者世帯の所得において公的年金・恩給の占める割合が大きいことが示されています。現役時代の収入がなくなると、年金中心の家計へ切り替えざるを得ない世帯は少なくありません。
夫婦にとって苦しかったのは、単にお金が足りないことだけではありませんでした。「昔は裕福だった」という自負が、支援を求めることを遅らせていたのです。
生活保護や公営住宅の相談を勧められても、最初は強く抵抗しました。しかし、現実には家賃を払い続けることが難しくなっていました。
最終的に、夫婦は地域包括支援センターと自治体窓口に相談しました。家計を整理し、より家賃の低い住まいへの転居や、利用できる公的支援について確認することになりました。
「もっと早く相談していれば、ここまで追い詰められなかったかもしれません」
正一さんはそう振り返ります。
高齢期の生活苦は、突然始まるとは限りません。収入が少しずつ減り、貯金が少しずつ減り、それでも昔の感覚のまま「まだ大丈夫」と思い続ける。その積み重ねが、ある日、家賃滞納という形で表面化することがあります。
かつて裕福だったことは、現在の生活を保証してくれるわけではありません。夫婦は収入が減った現実だけではなく、過去の暮らし方から抜け出せなかった自分たちの認識にも直面したのです。
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