「退職したら二人でゆっくり」が一転…夫が切り出した離婚話
「これからは別々の人生を歩もう」
夕食を終えたあと、夫の正志さん(仮名/66歳)から突然そう告げられ、63歳の恵美さん(仮名)は言葉を失いました。
結婚して35年。正志さんは会社員として働き、60歳で定年を迎えた際には約3,500万円の退職金を受け取りました。その後も65歳まで再雇用で勤務。恵美さんは結婚を機に退職し、二人の子どもを育てながら、長年専業主婦として家庭を支えてきました。
子どもたちはすでに独立しています。
恵美さんは、夫が完全に仕事を辞めれば、ようやく夫婦で旅行に行ったり、ゆっくり過ごしたりできると思っていました。ところが正志さんの考えは違いました。
「子どもも独立したし、俺も仕事を終えた。残りの人生くらい、それぞれ好きに生きてもいいんじゃないか」
「離婚ってこと?」
「そう考えている」
浮気や借金など、大きな問題があったわけではありません。正志さんは、長い結婚生活のなかですれ違いが積み重なり、今後は一人で暮らしたいと考えるようになったと説明しました。
しかし、恵美さんにとって問題は感情面だけではありません。
「私は35年間、ほとんど外で働いていないのよ。今さらどうやって生活するの?」
自分名義の預金はわずかです。自宅も夫名義。さらに正志さんからは、「退職金は自分が働いて得た金だから、自分のものだと思っている」と言われました。
恵美さんは、その言葉を聞いて初めて強い不安を覚えたといいます。
数日後、娘に事情を打ち明けました。
「お母さん、一人で決めないほうがいいよ。お父さんの名義だから全部お父さんのもの、という話ではないんじゃない?」
娘に勧められ、恵美さんは専門家に相談することにしました。そこで初めて知ったのが「財産分与」です。
夫婦が婚姻中に協力して形成した財産は財産分与の対象となります。また退職金についても、婚姻中の夫婦の協力によって形成されたと評価できる部分は、財産分与の対象となり得ます。もっとも、退職金3,500万円が自動的に半分になるわけではなく、婚姻期間や取得時期、残っている財産などを踏まえて判断されます。
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